Mikiyoshi1986

アントニオ・ダス・モルテスのMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

3.9
60年代、発展途上のブラジル映画界に新風を巻き起こした「シネマ・ノーヴォ」の旗手グラウベル・ローシャ監督。
本作はカンヌ国際映画祭にて監督賞、ルイス・ブニュエル賞を同時受賞し、国際的な知名度とその実力を世に知らしめた彼の最高傑作と云えるでしょう。

19世紀の末頃より、地方大地主の配下で苦しめられてきた貧農たちが決起し、義賊カンガセイロが誕生。
広大な土地を所有しながら農民たちを搾取する地主を次々に襲撃し、富の分配に努めた彼らは民衆から一定の支持を得ていました。
そんな農村制度の抑圧に抵抗してきたカンガセイロもバルガス強権政治の煽りによって衰退し、1940年頃には消滅。

そして本編の舞台は現代(1960年代)、未だ封建体制が残る北東部の田舎町に突如カンガセイロを名乗る信仰団が現れます。
それに対抗するため大地主コロネルはプロの殺し屋アントニオ・ダス・モルテスを雇い、やがて町は対決の場へと発展。
しかし次第に、金持ちに雇われ貧しい民を殺すことに疑問を感じ始めたアントニオは…。

この一風変わった南米西部劇、ペキンパー作品と錯覚する瞬間が何度かありました。

腐敗と堕落に満ちた支配者階級を暴き、真の敵とは何かを訴えたローシャ監督。
このウエスタン劇の裏側には当時の軍事独裁政権への政治的批判。
またアメリカ独占資本による急速な産業化の波や、農地改革による情勢の移り変わりなど、当時のブラジル国内の世相がリアルに反映されています。

一方で宗教的な意味合いも込められており、この神話性が本作をより娯楽的・映画的な作品たらしめているようにも思えます。
ブラジルの土着音楽や荒涼とした土地、衣装美術なども雰囲気満点で大変素晴らしいです。
Mikiyoshi1986

Mikiyoshi1986