ninjiro

アントニオ・ダス・モルテスのninjiroのレビュー・感想・評価

3.8
荒い画用紙に融ける程に柔らかな色鉛筆で擲り書きされた様な彩り溢れる雑多な世界を、圧倒的な歌声と足踏みは揺さぶり続ける。

意図や想いは葛折りを行き来して、其々目を伏せながら忙しなく、その眼が通づる処は銃弾も刃も要せぬ命の遣り取りの場のみ。
それは必然の時を知る人々の意図的な目配せ。

様式を擦りながらも様式が生み出す意味は放棄され、遠い彼、カンガセイロと今ここにある「私」は争い、生きる意味の様々と、その違いを際立たせる。
感じなくなる、ということ自体は罪ではない。
見えない彼が自身が為した事を尚見えぬ振りをして為す事こそが大罪なのだ。

流行歌に惑わされるな。
その心を揺らすのは見知らぬ誰かではない。
ただ信じるものと心を一つに。
歌う諸々の魂を見極め、その時を見極め、
己自身が歌うのだ。

「SHELL」の看板が高く掲げられたアスファルトの一本道をゆっくりと往くのは死神か救い主か。名も無き彼に贈られる名は「アントニオ・ダス・モルテス」。
彼には今成し得たものが如何程のものかを考える余地はまだない。
しかしいつの日にか辿り着くその最果てで悪竜とゲオルギウスは再び相見え、民は何度でも繰り返し同じ音を響かせ、その大地を揺るがすだろう。
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