三隅炎雄

今日に生きるの三隅炎雄のレビュー・感想・評価

今日に生きる(1959年製作の映画)
3.7
鉱山町にやって来た裕次郎が二つの運送会社の揉め事に巻き込まれる。裕次郎が運ちゃんとして雇われた二谷英明の会社は、敵対する金子信雄の会社の謀略で働き手を奪われ仕事が出来なくなっていく。ここまではよくあるプロット。

追い詰められ、焦りと怒りの中で正気を失っていく二谷の姿に、先の戦争で国に裏切られるようにして死んでいった兵士たちのイメージが重ねられてくる辺りから、映画が型を外れて俄然面白くなる。裕次郎とその母には戦没者遺族のイメージが重ねられ、二谷の怒りと裕次郎の怒り、あの世とこの世の怒りが共振した時、戦中戦後を貫く幻想まじりの死の風景が画面に広がったのには驚かされた。日活時代の舛田がこのような観念的幻想的な描写を見せたことが他にあるだろうか。
舛田にしては細部の演出が甘く全体の仕上がりは決して良いとは言えないが、ここでの実験精神は決して無視することは出来ない。
三隅炎雄

三隅炎雄