舞台的な演出でリチャード・バートンが演じるファウストがひたすら内省し続けるという内容。登場人物が極めて少なく、相手役に大女優エリザベス・テイラーを起用しているもセリフは無く、監督兼主役のリチャード・バートンのひとり舞台といっても過言でない。バートン演じるファウストの優柔不断な心の動きが終始クローズアップされている。本作の一番の魅力は何と言ってもセットや装飾や道具に衣装やメイクなど美術面だろう。地獄的で悪魔的な世界観が不気味な色彩美で終始見事に演出されている。ファウストがルシファーに地獄に引きずり込まれるラストシーンの毒々しくも幻想的な雰囲気は圧巻。セリフは無くてもエリザベス・テイラーの存在感は強烈。衣装とメイクが兎に角凄まじい。テイラーはアレクサンダー大王妃やヘレネなど伝説や神話の美女から堕天使ルシファーの形姿にまでも扮しているのだがどれも個性的でインパクトが強い。その中でもやはりテイラーの扮したルシファーの形姿は不気味な高笑いも含めて本作最大の見どころだろう。ファウスト伝説の映画化としてはゲーテの「ファウスト」の色は殆ど無い。物語の要素としてはシュヴァンクマイエル版と被る部分が多く、道徳的・宗教的な戒めでもあった民間伝承のファウスト伝説が基盤になっている。もしかしたらシュヴァンクマイエル版は本作にヒントを得た部分もあるのかもしれない？ これまでに観たファウスト伝説の映画化作品の中ではホラー色が格別に強い。悪魔と契約を交わした魔術師を本作で演じたリチャード・バートンが後に「エクソシスト２」で悪魔と対峙する神父を演じるところにも面白味を感じる。

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