なべ

エミリー・ローズのなべのレビュー・感想・評価

エミリー・ローズ(2005年製作の映画)
3.8
「死霊館 悪魔のせいなら、無罪」のこれじゃない感にモヤモヤしてたら、フォロワーさんからお勧めいただいた作品。
 過去にレンタルで観たはずなのに全然覚えてない。やばい、ボケか?と思ったら、観てるうちに、あ、これ知ってる!と思い出し(深夜に何度も流れるねじ曲がった体のエミリーがクワーッと吠えるCMも)、なんで忘れてたのかも思い出した。
 これ、映画を観たあと、現実のアンネリーゼ・ミシェル(=エミリー・ローズ)の記録を貪るように読んだからだ。本物の記録の方がずっと忌まわしくて(現実は結構な毒親だったりして)、映画の印象がかすんでしまったのだ。
 というわけで今回は現実編の補完はなしにしてエミリー・ローズ単品として鑑賞した。

 まあ、おもしろいのなんのって。死霊館で描かれなかった「法廷で争われる悪魔の存在」をモロに描いてて、これ見たかったやつ!と小躍りしたわ。ediさん、ありがとー!
 病気なのか悪魔憑きなのか、法と宗教って食い合わせの悪い価値基準をうまく対比させながら最後までぐいぐい引っ張る。
 これはそこいらのホラーとは違うんですとばかりに構築された理知的なテイスト。オカルト描写はやろうと思えばいくらでもエグくできるのに、最小限にとどめた感じ。まあ作品の立ち位置がホラーじゃなくて法廷劇区分なのだろう。でもこのさじ加減は嫌いじゃない。エミリーの見る幻覚(主観描写)がなかなか怖くて悪夢のように深く印象に残るのだ。「悪魔のせいなら、無罪」よりよっぽど怖かった。
 ファーストコンタクトのシーン。エミリーの主観が色鮮やか。午前3時、焦げくさいにおい、見えない何かののしかかり(レイプっぽくもある)という一連の流れがいや〜な感じ。その後も午前3時・焦げくさいにおいがセットで出てくるたびに見ているこちらは手に汗握っちゃう。今後、午前3時に焦げくさいにおいを嗅いだらどうしよう。
 個人的には悪魔憑きを文化人類学と精神医学の見地から研究している教授の証言がとても興味深かった。彼女の話をもっと聞いていたかったくらい。
 精神疾患説と悪魔憑き、さらには悪魔憑きを科学的に考察する意見まで出て、普通のホラーでは絶対到達できない領域に話を持っていくおもしろさ。うーん、美味。
 …と、ここまで書いてて、だんだん当時の気分が蘇ってきた。
 2006年(レンタルだから2007年くらいか)のぼくは本作をホラーとしての要件を満たしてないばかりか、法廷ものとしての緻密さにも欠け、どっちつかずという印象を持ったのだった。
 裁判の争点が悪魔の存在の有無ではなく、神父に過失があったかどうかってところももの足りなかったし、最後に明らかになるエミリーと神父の信頼関係や、エミリーの受け入れる宗教的事実が、キリスト教のプロパガンダにしか思えず、なんだかなあって気持ちになったんだわ。
 今は当時より心根が穏やかになった分(どこがやねん!って指摘は甘んじて受け入れます)、この法廷劇を楽しむことができた。歳を重ねてこの地味な渋みがわかるようになったのかもしれない。
 「悪魔のせいなら〜」で勝手にイメージしていた法廷ものホラーって話が本作で満たされるというおかしな代替効果もあって、いい具合にハマったんだと思う。このアプローチで死霊館も挑戦してくれていたら、とても好きな一編になってたのになあ。

追記
 これを観た方は、当時のぼくがハマったように、ついでにアンネリーゼ・ミシェルの身に起こった現実もぜひご覧いただきたい。映画で描かれなかったビフォアなところからすでに始まってんじゃん!と怖気を震うのもよし。やはりこれは境界例や分裂症なのではと検事側の視点に立ってみるのもよし。こんなに資料が揃っているのにスルーするなんてなしですぜ。
なべ

なべ