あなぐらむ

帰らざる波止場のあなぐらむのレビュー・感想・評価

帰らざる波止場(1966年製作の映画)
4.0
ホテルニューグランドにて上映イベントを行った。

石原裕次郎+浅丘ルリ子コンビに、東宝から志村喬を招いた豪華な顔ぶれで「赤いハンカチ」(1964年)の夢よ再び、と作られた一本。
前回は「第三の男」、今回は「カサブランカ」を元ネタとしている。
監督は後期日活ムードアクションの旗手・江崎実生。舞台も同じ横浜。

石原裕次郎過去を背負った世界的なジャズピアニストとして登場。過失とはいえある人を殺してしまった自分が許せず、喪ったものを取り戻す為に、そして背後にほの見える陰謀を突き止めようと動き回る。
一方のヒロイン、浅丘ルリ子は神戸から流れてくる有閑マダム(死語)。こちらも影のある女性。
演技派、情熱演技への傾斜を見せていた頃だけに、浅丘ルリ子演じる「運命の女(ファム・ファタル)」が裕次郎を騙しているのか、愛しているのかというせめぎあいのラブロマンスが、この作品の最大の見所と言っていい。
若い頃のおきゃんな感じが抜けてすっかりオトナになったルリ子の美しさが堪能できる。

また「赤いハンカチ」では金子信雄が演じた、主人公たちを揺さぶる刑事役を志村喬が演じる事で(なんとも食えない演技が印象的)、作品のポイント、ポイントを整理しつつ、重しになっている。なお金子信雄は後半にさもありなん、という役柄で登場。榎木兵衛が印象的な中国系の売人を演じて一世一代の仕事。

また、熊井啓(「霧笛が俺を呼んでいる」)なども脚本題材にする麻薬取引シンジケートが人の人生を狂わせていく様を、「憎いあンちくしょう」「硝子のジョニー」の山田信夫が硬派に描き出しており、メロドラマに傾き過ぎない仕上りとなっている(共同脚本は中西隆三)。
とは言うものの江崎実生はアクションへの興味は薄く、ひとつひとつの抒情的な絵柄を撮る事にこそ心血を注ぐ。
山下公園 のデイシーン等は奥へ延びていく構図が素晴らしく、ひとつひとつの画に華がある。
女性を美しく見せるのは日活の伝統。

本作では途中で北海道に行ってしまう「赤いハンカチ」よりも、横浜の「街」を感じる事ができる。
物語の進行がほぼ横浜で推移する事もあるが、江崎監督のロケーションを大切にして構図を作るセンスも有るのだと思う。山下埠頭、大桟橋、中華街。切り取られていく景色と日活らしいセットワークによる安ホテル(やはりというか、武智豊子さんが女将を演じて出落ちする)、海辺のイタリアン・レストランの佇まい。「ムードアクション」と呼ばれる時代に入っていた事もあって、裕次郎も青春スターではなく「男」として、そしてルリ子も「女」として、作品の中ですっとつぶ立っている感じ。

クライマックスの単身殴り込みの技斗になると途端に凡庸になってしまう所が惜しい。下手な銃撃戦にならないのは裕次郎らしいところだろう。裕次郎は拳だ。

エンディング、大桟橋から旅立つ二人に未来はあるのか、ないのか。余韻を残す映像に、劇中何度も使われる裕次郎の歌うテーマ曲「帰らざる波止場」が流れる。過不足のない映画。これがプログラム・ピクチュアだ。