あなぐらむ

ボーン・レガシーのあなぐらむのレビュー・感想・評価

ボーン・レガシー(2012年製作の映画)
3.8
公開時に観たのだが、ムービープラスで放送していたので再度鑑賞。
印象としては変わらず、「偉大なる失敗作」。アクション映画としての出来上がりとしては水準以上、「ジェイソン・ボーン」シリーズのスピンオフとしての作りもこれでいいんだと思う。尻上がりに面白くなるし。
ただこれ、ボーン・シリーズの脚本家が書いて監督もしてるのに、恐ろしく序盤が地味なんだわ。ボーンのように目が覚めた所から始まってるんではなくて、アウトカム計画の実験中で既に人里離れた山で生活をしているアーロン・クロス(「ウインド・リバー」でも雪の僻地で生活してる可哀想なジェレミー・レナー)からお話が始まるので、(ボーン・シリーズを見慣れている人でも)この「もうひとつのジェイソン・ボーン」の物語に乗っかりにくい。これとCIA側のリック・バイヤー(エドワード・ノートンの起用は正しい)側の攻防になっていくのだけれど、いかんせん陰謀とヤクにまつわる話(二つの薬を飲み続けるっていうのがね。まぁありそうな陰謀ではある)ばっかりになっちゃってて、「活劇」の方が駆動しない。悪い線では全然ないんだけど、ポール・グリーングラスのように観客を「その場所」に放り込む事が、やっぱ出来てない印象なんだな。

監視役のオスカー・アイザックをあっさり殺して(作劇としてね)薬の開発者であるマルタ(レイチェル・ワイズ)と出会う辺りからエンジンがかかり始め、中盤以降はサスペンスとアクションが噛み合って終盤はちゃんとボーン・シリーズになっちゃってるのだが、そこまでがしんどいんじゃ。
おなじみMOBYのエンディングの頃にはすっかり主人公たちの関係もそれっぽくなってる訳だが、本線がまだこの先もありますよ、という事を言いたいあまり、単体としての映画の魅力が半減しているのよ。本郷猛が出てこない仮面ライダー、みたいなもんである。分かんないか。

レナーさんは身体能力・演技力ともしっかりタイトル・ロールを背負う仕事を見せ、ここいら辺りから脂が乗ってきたのかなという感じ。
レイチェル・ワイズはシリーズ・ヒロインらしいルックスで、巻き込まれヒロインを無難に演じている。吹き替え版って松雪泰子なのな。

脇役はなんとも豪華で、シリーズキャストのジョアン・アレン、デヴィッド・ストラザーンにスコット・グレンと重量級が並び、そこは映画の格式と本線への繋ぎを上手にやっているのだが、やっぱ手段の目的化(もともとボーンの話は「自分探しの旅」でその手段として臨場するアクションがある訳だ)ってのは本末転倒っていうか、こじんまりせざるを得ないという。
トニー・ギルロイは「ローグ・ワン」にも参加してて、なんか「本線にいない人/本筋じゃない人」の話を描ける人なんだな、というのはある。ドキュメンタリストであるグリーングラスと違う、劇作家という感じの演出がやっぱりちょっと、こちらが求めちゃうラインに少し足りないのかな。

そういう感じだが映画としては、非常にまぁ「手堅い」仕上がりではあるので、言っちゃえば「勿体ない」一本である。