ルサチマ

さらば夏の光のルサチマのレビュー・感想・評価

さらば夏の光(1968年製作の映画)
4.6
キャスト・スタッフ含めて6人という超小規模撮影でヨーロッパ諸国を巡りながら1ヶ月で撮影をするという機動力といえば聞こえはいいが、あまりに無茶な制作体制で、然し紛れもなくヨーロッパの陽光を見事に捉えたリッチな撮影の魔術にビビる。そのリッチさの要因があるとすれば、それは意図的にどのロケーションであろうと挿入されるロングショットの存在が挙げられる。ロングショットは空間を露わにするものだと思っていたが、それ以上に強烈な因果(西洋でいう運命)というか、もしくは因果や運命という言葉からも解き放たれて風が勝手に吹き込んだり、光と影のコントラストが生まれるような、そうした現象そのものを呼び寄せるものなんじゃないかという気がしてきた。ひたすらすれ違い続ける男女の交差をほとんど人物の歩行とロケーションに設置された遮断物によって語ってみせる単純明快さも見事。そしてそれは全て岡田茉莉子のあまりに細かな職人的な歩き方のニュアンスの変容によって成立していると確信する。ハンドバッグの持ち方と腕の振り方と速度、それらのバランス、つまりは優れた女(女優)の基礎となる所作だ。現代の日本人(に限らず)女性に失われた美の振舞いに目を奪われずにはいられなかった。
ルサチマ

ルサチマ