マーくんパパ

チャップリンのニューヨークの王様のマーくんパパのレビュー・感想・評価

3.9
チャップリンの遺作。チャップリンは喋る俳優としてもきっと一流だったに違いない、だが喋る以上に表情身振りで感情表現できる最大の武器を喋る為に抑制される悲しさ。コメディとしての洒脱さよりもアメリカを去らなければならなかったアメリカへの失望が滲み出ていてこれも悲しい。某国王様のチャップリンは革命のため母国を脱出し自由の国ニューヨークにやって来た。しかし低俗な風俗と喧騒に振り回される様子を風刺を交えて点描。原子力の平和利用設計図を売り込む目論見はあまり話が広がらず。1番のメッセージは赤狩りで思想統制を強める自由のない国になってしまった失望感。ただ『独裁者』のように自身が雄弁に指弾することなく、実子のマルクス愛読小学生ルパート役のマイケルに代弁させ老体は去りゆくのみとアメリカを後にする。どんなに貧しくても希望を捨てない浮浪者チャップリンはもうそこにはいない。レッドパージが吹き荒れ映画人同士が密告をしないと生き残れない希望のない国アメリカに決別しなければならなかったチャップリンの心境が映画の出来ばえよりも透けて見える悲しい悲しい遺作でした。