サマセット7

キートンの大列車追跡/キートン将軍/キートンの大列車強盗のサマセット7のレビュー・感想・評価

3.8
監督・主演は、「セブンチャンス」「キートンの探偵学入門」のバスター・キートンと、これらの作品で脚本を務めたクライド・ブルックマン。
1926年公開のサイレント・モノクロ映画。

[あらすじ]
南北戦争時のアメリカ南部。
機関車「将軍」を操縦し、鉄道員を務めるジョニー・グレイ(キートン)は、片思いの相手アナベル・リー(マリオン・マック)の信頼を勝ち得るため、南軍兵士に志願する。
しかし、鉄道員を戦時利用したい軍の思惑で入隊を認められず、アナベルからは臆病者と誤解されてしまう。
その1年後、北軍のスパイに「将軍」を盗まれ、同時にアナベルをも拉致されてしまったジョニーは、別の機関車に飛び乗り、単騎で命懸けの奪還を目指すが…!!!

[情報]
映画がまだモノクロで、音声もなかった時代。
多数のコメディアンが映画に出演していたが、中でも三大喜劇役者と呼ばれる3人が、抜きんでた人気を集めていた。
「小さな放浪者」チャールズ・チャップリン、眼鏡の「ザ・ボーイ」ことハロルド・ロイド、そして、「ザ・グレート・ストーンフェイス」(偉大なる無表情)こと、バスター・キートンである。

バスター・キートンは、三大喜劇役者の中でも最も年下で、デビューも最も後である。
その芸風は、異名のとおり、いついかなる時も無表情であること。
そして、曲芸師出身のキャリアを活かした、体を張ったスラップスティック・コメディ(ドタバタ喜劇)である。
その体の張り具合や動きの切れは、チャップリンなどと比べてもはるかに激しいもので、今見ると、スタント・アクションそのものである。
今では、ジャッキー・チェンや、トム・クルーズなど、自ら体を張ってスタント・アクションを行うアクション俳優たちの先人として引き合いに出されることが多い。

キートンの監督・主演作はヒットしたものが多いが、今作は当時は然程ヒットせず、批評的にもイマイチな評価に終わったらしい。
興収に関しては、売上の問題というよりも、予算をかけすぎたために、採算に合わなかった、ということかと思われる。
批評的には、アクションにより過ぎ、コメディとして面白みに欠ける、ということだったと思われる。

今作は、現在では、ヒーロー・アクションの先駆的作品として、極めて高い評価を受けている。
オールタイムベスト企画や、映画の歴史を振り返る企画などで、しばしば選出される作品である。

ジャンルは、スラップスティック・コメディと、鉄道を使ったアクションのミックス。
ロマンティック・コメディ、戦争ものの要素も含む。

ストーリーは、相手の陣地に鉄道を使って乗り込み、女性と汽車を奪還して元の基地に帰る、という「行きて帰りし物語」である。

[見どころ]
鉄道から飛び降り、飛び乗り、屋根を走り抜けるスタント・アクションの連発!!
約100年前にCGなどあるわけもなく、スタント用の影武者も出ている様子はない!
全てはキートンの身体を使ったガチンコアクション!!!
その、本物ならではの凄み!!!
戦争もの特有の悲壮感もなく、適度に短い喜劇なので気楽にスイスイ観られる!!

[感想]
映画評などでたまに名前の引用を見かける伝説的俳優、バスター・キートン。
一度は見なければということで、代表作とされる今作をついに鑑賞。

結果、楽しんだ。

なるほど、アクションスターの元祖と言われるのも納得。
とにかく、キートンは身体を張っている。

特に印象的なのは、奪取された機関車を、別車両で追うシーン。
先行車はさまざまな妨害を仕掛けてくるのだが、なかでも、線路に木材を置かれた時のキートンのアクションがスゴイ。
まず、彼は汽車から飛び降りて、汽車の前にある一つ目の木材を取り去ろうとするのだが、その間も汽車は動き続けているので、キートンは、木材を担いだまま、ストンと進み続ける汽車の前部の出っ張り(カウキャッチャー)に腰掛ける形になってしまうのだ。
一つ間違えると普通に轢かれる場面だ。
そして、前方の線路には、二つ目の木材が残っている。
キートンは、汽車の前に腰掛けたまま!
どうする!?
どうなる!!?
この解決には、ビックリさせられた。

その他、汽車の進行を妨害する攻防が、あの手この手でアイデアに富んでいる。
行きは妨害される側、帰りは妨害する側、というのも良くできている。

なお、この行きて帰りし話を暴走する乗り物でのアクション満載で描く、というのは、「マッドマックス/怒りのデスロード」のプロットそのもの。
同作のジョージ・ミラー監督は、キートンの作品のファンを公言しており、参考にしたのだろう。

コメディとして笑えるかというと、人によるだろうが、多彩なアイデアでネタを仕込んでくるので、笑うより前に感心してしまう。

ラストもスカッと爽やか。
全編ドタバタしてるのに、一貫して無表情なところが、また可笑しい。

今作は約100年前の映画であって、その後映像技術も映画の作り方も大きく変わった。
様々な点が、圧倒的に古いことも事実だろう。
しかし、古いからこそ、実物で勝負するしかないからこそ、出てくる魅力もある。
今作はそんなことを教えてくれる。

[テーマ考]
チャップリンの作品に見られるような、一歩踏み込んだヒューマニズムやテーマ性は感じられない。
ロマンティック・コメディとしての深みは然程でもない。

元祖アクションスター、バスター・キートンによる今作は、潔いまでに「動き」を見せることに集中している。
疾走する汽車!
その上を走り抜けるキートン!
汽車の向こう側を通り過ぎる兵士たち!!

今作のテーマは、まさしく、「キートンのアクション」そのものと言えるかもしれない。
アクションに注力したからこそ、今作は歴史に名を残したのだろう。

[まとめ]
元祖アクション・スター、バスター・キートンによる、体を張ったアクション連発の代表作。

残念ながら、トーキー時代も生き残ったチャップリンと異なり、無表情を芸風としたキートンは声質もあってトーキーに適応できず、サイレント時代の終焉と共に一線から退いてしまう。
チャップリンがかつてのライバルを拾い上げた共演作が、1952年の「ライムライト」である。
キートンが同作でいかなる演技を見せたか。
未見なので、いずれ観てみたい。