菩薩

偽りの晩餐の菩薩のレビュー・感想・評価

偽りの晩餐(1987年製作の映画)
4.2
「この映画はすべてがフィクションでは無い」とのことであり、おそらく「彼」が見てしまった真実の部分と、彼が見てしまった虚構の部分、むしろ彼が見たくなかった真実と虚構の部分とが様々に組み合わさっている映画なのだろう。彼の視線はこの作品を観る者の視線と同化し、我々を「なんだかよく分からないがきっとここにいたらヤバいことになる」場所へと連れ出してしまう。逆船場吉兆かよ!とツッコミを入れたくなる囁きババアを頂点とした謎のヒエラルキー、おそらくその場で発生しているであろうなんらかの利権に縋る哀れな者達、一切の喜びが排除された偽りの晩餐会、天使は欲望に汚され、欲望に迫られた彼は遂にその場からの逃亡を図る。逃亡であるのか、はたまた解放であるのかもまた紙一重、だが彼を噛み殺す予定だった猛犬も最後にはその任を解かれる事となる。曽我部恵一風に言えば「おとなになんかならないで ぼくのBaby〜」なのかもしれないが、裏を返せば彼は自身で大人になる事を放棄したとも受け取れる。彼の記憶にこびり付く在りし日の光景と、我々の記憶に刷り込まれる余りにもグロテスクなこの世の物とは思えない巨大魚。曖昧でありながら挑戦的、かつ皮肉的にも受け取れる作品。唯一確かなのはこの世の幸福は誰かの犠牲の上にこそ成立するという事だろう。
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