私の中ではアル・パチーノの最高傑作で、この作品の彼の演技は終生忘れられないだろう。
アル・パチーノは盲目の退役軍人。毒舌で攻撃的だが鬱っぽくもあり、周囲からは疎まれ、自分の人生をも愛しきれない孤独な男。でも女性にはひときわ甘い。
登場からその威圧的な大声にこちらもドキっとする。薄暗い部屋に座る彼の眼差しは何も語らない。見えないはずの彼の眼光の鋭さにたじろぐ位、存在感が凄い。
彼が道先案内の青年を連れてニューヨークへ旅に出る。途轍もなく気難しい彼におどおどしつつ、振り回される青年役のクリス・オドネルが初々しい。
その年の差離れた2人の珍道中の果てに、パチーノの本当の目的がわかるのだが、それは観て欲しい。
作品は157分と長尺なのだがこの2人の旅をいつまでも観たくなる。
ニューヨークの高級ホテルやダンスホールなど街並みもまた魅力的。たまたま居合わせた美女(ガブリエル・アンウォーが超可憐!)を見事にエスコートする美しいタンゴシーンが心に残る。
彼の頑なさの中に繊細なハートが滲みだし、いつのまにか好きになっている。
青年の側にも深い葛藤がある。彼は規則でがんじがらめのエリート学校の生徒で、自分に自信を持てないでいる。
そんな中、友人が起こした校長への悪戯を目撃し、犯人の名前を言えと強制されている。言えば密告で友人を裏切ることとなり言わねば将来は無くなる。
その悩みをアル・パチーノが気づき、そして青年をどう導くのかも見どころなのだけど、鍵を握るクライマックスのアル・パチーノのスピーチは圧巻の一言。このシーンがとにかくシビれる!鳥肌が立つほどに。
この作品は、若者と老人の魂の絆を描いた作品でもあり、命とは?生きる尊厳とは?と、生きる意味を深く考えさせる名作だと私は思っている。
誰からも愛されなかった盲目のアル・パチーノが青年クリス・オドネルに救われ、そして自分を貫く勇気が挫けそうなクリス・オドネルがアル・パチーノに救われる。
真剣に2人がビリビリと命の火花を散らした先に、年齢を超えた深い友情が溢れるのだけど、最後は涙が止まらなかった。
長いノミネート歴の中、この作品で初アカデミー主演男優賞を受賞したアル・パチーノの圧倒的な演技を、一度は心から堪能してほしいと思う。