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セント・オブ・ウーマン/夢の香りのYYamadaのレビュー・感想・評価

4.2
【ヒューマンドラマのススメ】
 ~映画を通じて人生を学ぶ

◆作品名:
セント・オブ・ウーマン/夢の香り
  (1992)
◆主人公たちのポジション
・自殺願望を秘めた盲目の退役軍人
・盲目の退役軍人を世話する高校生
◆該当する人間感情
 警戒、嫌悪、憂い、誇り

〈本作の粗筋〉 eiga.comより抜粋
・ボストンの全寮制高校に奨学金で入学した苦学生チャーリーは、帰省費用を稼ぐため、アルバイトで盲目の退役軍人フランクの世話をすることに。偏屈で口の悪いフランクに困惑するチャーリーだったが、フランクの姪に懇願され仕方なく引き受ける。
・ある日、同級生が校長の愛車にイタズラを仕掛ける場面を目撃したチャーリーは、激怒した校長から、犯人の名を明かせば名門大学への推薦、断れば退学にすると迫られてしまう。苦悩しながらアルバイト初日を迎えた彼は、フランクのニューヨーク旅行に強引に同行させられることになり…。

〈見処〉
①心で見る…こわれた夢のかけらを
 抱いて、男は小さな旅に出た——
・『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』は、1992年に製作されたヒューマン・ドラマ。監督は『ビバリーヒルズ・コップ』のマーティン・ブレスト。
・人生に悲観し、ふて腐れた孤独な盲目の退役軍人が、自身もトラブルを抱え人生の選択に迫られている心優しい青年との数日間の交流を通じて、自分の人生を見つめ直し、新たな希望を見出すまでを描いた本作は、イタリアの作家ジョヴァンニ・アルピーノの小説 「闇と蜂蜜」を原作とし、映画化は1974年のイタリア映画『女の香り』に続く2作目。
・盲目の元軍人を演じた主演のアル・パチーノは、本作で悲願のアカデミー主演男優賞を受賞。共演のクリス・オドネルは本作でブレイク、『バットマン フォーエヴァー』のロビン役を獲得するきっかけとなる。また、後にアカデミー賞を受賞する当時24歳のフィリップ・シーモア・ホフマンが同級生を演じている。

②パチーノとアカデミー賞
・アカデミー賞の常連のアル・パチーノは、過去に9度の男優賞ノミネートを誇る名優。
・うち、もっとも精力的に俳優活動に取り組んでいた1972年から1975年にかけては『ゴッドファーザー』シリーズ、『セルピコ』『狼たちの午後』にて4年連続でアカデミー賞にノミネートされるが、受賞には至らなかった。
・舞台を中心に活動していた80年代を経て、1989年に『シー・オブ・ラブ』で映画に復帰すると、『ディック・トレイシー』で助演男優にノミネート。『ゴッドファーザー PART III』(1990)を経た1992年には、本作でアカデミー主演男優賞、『摩天楼を夢みて』でのアカデミー助演男優賞と2つにノミネートされ、本作にて現時点で唯一の戴冠となる主演男優賞を獲得した。

◆受賞
❼1993年 主演男優賞:
『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』

◆ノミネートのみ
❶1973年 助演男優賞:『ゴッドファーザー』
 →同年の受賞者: ジョエル・グレイ
❷1974年 主演男優賞:『セルピコ』
 →同年の受賞者: ジャックレモン
❸1975年 主演男優賞:
『ゴッドファーザー PART II』
 →同年の受賞者: アート・カーニー
❹1976年 主演男優賞:『狼たちの午後』
 →同年の受賞者: ジャック・ニコルソン
❺1980年 主演男優賞:『ジャスティス』
 →同年の受賞者: ダスティン・ホフマン
❻1991年 助演男優賞:
『ディック・トレイシー』
 →同年の受賞者: ジョー・ペシ
❽1993年 助演男優賞:『摩天楼を夢みて』
 →同年の受賞者: ジーン・ハックマン
❾2020年 助演男優賞:『アイリッシュマン』
 →同年の受賞者: ブラッド・ピット

③結び…本作の見処は?
盲目の退役軍人の豪遊、お金の遣いすぎ。
◎: まばたきなし——アル・パチーノによる、眼球を動かさない迫真の盲目の演技。序盤「虚勢感を示し、人を寄せ付けない鬼畜ぶり」→中盤「全てに失望した脱け殻の男」→終盤「尊厳を取り戻した退役軍人の誇り」。その表情、声質…アカデミー主演男優賞に輝く熱演は必見。
◎: 作品中盤に訪れるアル・パチーノと当時の新鋭女優ガブリエル・アンウォーによる「盲目のタンゴ」は本作の大きな見どころ。1935年の映画『タンゴ・バー』の挿入歌として作曲された「ポル・ウナ・カベサ」は、本作(1992)、『シンドラーのリスト』( 1993)、『トゥルーライズ』(1994)と3年連続で映画史に残る名作映画に劇中曲として採用されている。
◎: クライマックスとなる全寮制高校の全校懲罰委員会による、アル・パチーノの雄弁は、人間の尊厳を取り戻した男により、心を揺さぶられる屈指の名シーン。
○: 名作『ミッドナイト・ラン』監督のマーティン・ブレストが得意とするバディムービーは本作でも魅力を発揮。親子以上に歳の離れた初老の退役軍人と青年が「盲目のフェラーリ運転」などを通じて心が結び付いていく様が心地好い。
▲: 感動の懲罰委員会のスピーチであるが、そもそもその懲罰となる理由が「校長に対するイタズラ犯人を告げ口せよ」は、あまりにクダラナイ。

④本作から得られる「人生の学び」
・凝り固まった価値観など、いつでも溶かすことが出来る
・友情の尊敬に歳の差はない。
・「俺くらいの付き合いになると、ジャック・ダニエルもジョン・ダニエルでいいのさ。」——老いても、男性としてのユーモアは失わないでいたい。
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