深獣九

セルビアン・フィルムの深獣九のレビュー・感想・評価

セルビアン・フィルム(2010年製作の映画)
4.0
噂に違わぬ壮絶な作品。
絶望って何?
地獄って何?
突き詰めたらこうなった。
これより酷いシナリオはないのでは?
観終わってげんなりしたよ。
陳腐な物言いだけどしばらく動けなかったね。
心がね。

残虐スプラッターかと思ってたけどしっかりと物語があって、ゴアシーンはむしろオマケなんじゃないかと感じるほど。むしろそれだからこそ、魂がえぐられる作品になったのだと思う。
失われた記憶を辿る展開。わりと使い古されてるけど、こんな地獄なやつある? ってくらい辛かった。

そして何が辛いって、クライマックスで終わりじゃなく、さらに続いてゆくこと。あそこで切ったって、誰も文句は言わないだろう。だがこのリアリティは地獄。何度も言うよ地獄。終幕も救いナシ。地獄。ドキュメンタリーじゃないよね。こんな現実があってもおかしくないけどさ。

エンタメ要素がほぼないってところも、胸糞地獄に打ちのめされる要因か。逃げ回ったり戦ったりがあればまだよかった。強者と弱者が明瞭で、弱者はひたすら打ちのめされる。リアリティを感じるわ。まあクライマックスにはあったけど、ぜんぜんスカッとしない。

いま感想文を書きながら、残虐なだけの映画ではないとあらためて感じる。
私は「自信を持っておすすめできる」映画に採点4を付ける。これを書く前は3.5だった。とてもおすすめはできないから。でもここまで書いて、4を付けようと決断した。勢いだけではない、計算された作品作りを感じたから。クオリティは高い。

だからこそ終幕は、胃を掴まれて毟り取られるような絶望を味わった。なぜ病院に連れて行かない? と全編通して唯一首を捻ったシーンがあるのだが、終幕で「そうか……そうだよな」と完全に腑に落ちた。やるせなさに気が狂いそうになった。この感覚は『ミスト』以来だと思う。理解してもらえるだろうか。

とにかく酷い映画だった。
男性器の形したライターや『哭悲』でオマージュされたシーン、ボカシゼロの漢気を茶化す気持ちは霧散してる。
もう二度と見たくないと思う。と同時に、映画が好きならばこの覚悟に必ず触れてほしい。そう思う。

※この映画にボカシがなく『X』がボカシだらけだったのはなぜだろう……
深獣九

深獣九