てっちゃん

セルビアン・フィルムのてっちゃんのレビュー・感想・評価

セルビアン・フィルム(2010年製作の映画)
3.8
極悪、激烈、悪趣味、畜生作品と名高い本作が、なんと4Kでリマスターされ、奇跡的に映画館で上映されるということを知り、覚悟と緊張を持って劇場へ。

上映初日より2日目の休日にも関わらず、5名くらいしか入っていなかったという寂しい有様。
でもなんだか選ばれし5名みたいな感じがし、この5名で惨劇を目撃です。

観賞中は、ちょっと退席しようかなと思ったこと数回。
観賞後は、どっと疲れて内面をやられた感じが終始渦巻いており、それを引きずるのが続く感じ。
この後、続けて映画観るのに、顔洗いに行ったくらい。

具体的に残酷描写がどうだとか、倫理観ぶっ壊れ描写について書くつもりはなく、ただ私の思ったことなどを総合的に書いていきます。

まともに本作を考えると、こんなの映画じゃないし、作った側は明らかにおかしいし、これを4K無修正で再上映させるのもおかしいし、よく日本で放映できたなと思う(これがOKならNG作品の基準はなんなのでしょうか。腰振り回数の問題?そういう問題なら倫理ってなんなの?ってなっちゃう)し、これを観に行く自分ですらどうかしてる。

だがしかし、どうかしてる世の中だからこそ、本作のような破壊と絶望と冗談を描いている作品を人は知らずのうちに求めるのであるのではないでしょうか。

本作は元ポルノ男優(インテリ)が主人公であるのだけど、彼がスナッフフィルムに予期せぬ形で参加させられ、妙薬により、人間性が崩壊し、人外へと変貌していくという内容。

これだけだと、よくある人間の本来持つ野生的な面を描いた作品であると思うかもしれないが、そんなところではない。

本作はセルビアという国(セルビアでは政府が良しとした映画作品にしか金が支給されなく、表現の自由なんて言葉だけの存在。当然、本作は支給金なぞ貰える訳もなく資金を集め製作し、完成不可能と本国では言われていたよう。あれ?これって形が少し違っても日本と同じ状況じゃねえの?)に対する挑戦であり、怒りであり、馬鹿にした作品である。

そして見事というか皮肉というか本作は、大物議を巻き起こし、セルビアをある意味、有名にしてしまったとでも言えるのではないでしょうか。
まさに、冗談がこれでもかというくらいに詰め込まれた結果である。
あれだけ人外のことをやり、ラストシーンで、"これがセルビアの幸せな姿です"だって。

セルビアが、ここまで狂っているということだ。
それを表現するために使ったのが、本作の表面の描写の数々ではないでしょうか。

本作は類似作品と比べ、一定以上の物語性がある。
本作では誰も救われず、何もしていない上位階級がその旨味をしっかりと己の手を汚すことなく気づかれることなく何事もなかったかのように奪い取っていく。
あれ?今の日本と全く同じじゃん。

本作の登場人物たちがまさにこのパターンですっぽりと当て嵌まる。
なんかおかしいなと思っていても気にしないふりをする人、実は踊らされているだけの人、美味しい思いしかしない人、犠牲になる人。

これらが分かると、作品内にカタルシスが生まれ、説得力があり、残虐描写がやりたいのが目的でないことが分かるはず。
それを鑑みると、壮大な"冗談"作品であり、"皮肉"作品であることが伝わるかもしれない。

ただやるからには本気ちんぽこ(ちょっとかわいくなる表現ですよね)で挑んで欲しかったところ。
これまで気合い入っている描写だったのに、ギンギンになったちんぽこが、笑えるくらいの作りもの感満載でそこでブレーキがかかってしまう感じ。

さらに後半の主人公が記憶を辿っていくという表現はいらなかったんじゃないかなと思った。
普通に時系列通りに進んでいった方が、より上乗せに上乗せされていったような気がしたかな。

あれこれ書いてるけど、残虐描写や倫理観ぶっ飛び描写ばかりではなく、そこの根底にあるものを知ると、より製作陣の狂気に気づき、見事に嵌ってしまっていることを知る作品でした。
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