ツクヨミ

一人息子のツクヨミのレビュー・感想・評価

一人息子(1936年製作の映画)
3.2
初トーキーネタを忍ばせつつもやっぱり安心する小津の作家性の安定感。
小津安二郎監督作品。小津が撮った初トーキー作らしい本作、ふらっと見てみたがやはりビジュアルと安心の家族ドラマに心酔できて至福だった。
まずオープニング、天井からかけてある蛍光灯のショットからスタート。小道具のクローズアップ、左右対称と奥行きの室内、相似系が並ぶ製糸工場内などなど小津調が既に完成している、ラストの小さな移動ショットを除けば全てが固定カメラな構図美にうっとりすることが小津映画の真骨頂。映像の質はやはり安心するほどだ。
そしてメインのストーリーは信州の田舎親子の過去と、息子が東京に進出し大人になった二つの時系列が存在する話。最早"東京物語"の前身なんじゃないかと思うほどの老婦人が東京にいる子どものもとを訪れるストーリー、老婦人が子どもに東京を案内されるハートフルな物語かと思いきや理想と現実が悲しくも衝突してしまう後半は涙無しでは見られない。温かな家族ものとちょっと辛辣な親子喧嘩が見られるのも小津作品ならでは。
また特筆すべきは中盤で息子が母親を映画館に連れて行くシークエンスで、息子が「これがトーキーですよ」と言ってから"未完成交響楽"が大胆にかけられるサンプリングにびっくりする。小津がサンプリングをすることもそうだが、その切り抜きの長さよ。そして眠る母親のカットバックもまた面白いし。あとはたまに繋ぎ間違いかと思うぐらいの謎カットバックが二つあったりしたのも良いし、駅構内の美構図にはたまげたほど楽しめた小津映画だったなぁ。
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