Sari

一人息子のSariのレビュー・感想・評価

一人息子(1936年製作の映画)
4.0
小津安二郎のトーキー第一作。
原作ジェームス・槇は小津のペンネーム。
オリジナルアイデアや原案の構想を立て、シナリオは池田忠雄、荒田正男と3人でまとめ上げた。

夫を亡くした母は田畑を売って息子を東京の大学にまで行かせるが、その成功を楽しみに上京してみると息子は期待した姿とは大いに違っていていた。

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当時の就職難や不景気が世相を色濃く染めていた日本の社会をリアルな現実の活写と言える。サイレント映画ではしばしば喜劇的要素を加味することで作品に軽妙な味わいを盛っていた小津も、ここではシリアスに人物をとらえ深刻に生活の哀れさを追求している。

この初のトーキー映画で、サイレント・スタイルをそのまま延長したような小津調を展開。キャメラは一段と低く構えられ、極端なロー・アングルのショットが支えた。おそらく小津作品の中でも最もロー・アングルのスタイルで統一された作品だという。それによってドラマの状況の中に観客を沈潜させるろうな効果を生んでいる。

音は極度にひかえめ、台詞も不自然なほど少ないが、それがかえって沈黙や無音の情景を印象深いものにしている。
しばしば挿入される空風景(エンプティ・ショット)、石油ランプ、ガス・タンク、物干し竿の洗濯物、鳥かご、風にひるがえるとんかつ屋の旗などのショットが時間経過や場面転換のブリッジの役割を果たし、この映画のムードを支えている。
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