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青いパパイヤの香りの海のレビュー・感想・評価

青いパパイヤの香り(1993年製作の映画)
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あなたの悲しそうな顔に、泣けるほど心がゆるむ。そこへ沈み込んでしまいたい。想いは重たいほうがきっとさびしい。でももう対等である必要はないの。割れた壺の欠片を頬に押し当てて涙を流した少女。知るということが、本当に好きだ、知っていくひとのことを、本当に愛している。あなたに抱かれる日を待っています、あなたを抱ける日が来るのを待ちわびています。そっと、じっと、あなたの視線の先だけを追って、感じている。眠りのはざ間で、月のあかるい光が太ももを吸うのを感じるとき、それに同調して遠くの海がしろくあをく波打つところを想像する。理性と知恵であなたを愛するわたしの一瞬の本能は、決しておろかではないはずなの。澱みなくて生きている、あざやかに儚い、この長い長い生活は、なんのためにあるのと聞かれれば、「あなたを愛するために、わたしはわたしを育んできました。」だからたったひとつのお願い、あなたの知らないわたしの記憶に、わたしが泣いてしまうときも、わたしと居て。過ぎ去れば無にも等しい成熟までの過程。無限にめぐる生命の轍。無数に刺さる雨の破片。青い月の光。青い海の吐息。胸の奥底に隠した記憶へと直結する、青いパパイヤの香り。

2019/9/22

ドビュッシーの月の光。ピアノをやっていた母が一番好きなクラシックで、幼い頃からよく耳にしていた。エンドロールが静かに終わって、まだまぼろしの中に居るようなぼんやりした頭で部屋から出た。母がリビングの灯りの下でパッチワークをしていた。「曲だけ聴かせてもらってた。どんな映画だった?」月の光だったね。うん、これはすごく好きだったよ。端切れに印を付けていく指を眺めながら、お茶を飲んで、少しだけ話した。今日は母の誕生日だ。
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