Hotさんぴん茶

青いパパイヤの香りのHotさんぴん茶のネタバレレビュー・内容・結末

青いパパイヤの香り(1993年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

始終不思議な雰囲気の映画だった。
のんびりゆったり、時に不穏。派手なことは起こらない。
(水面下ではいつも不穏だったかも知れないけれど。)
少女ムイが子どもから大人になるまで、本当にゆるりゆるりと進む。
それをぼんやりと眺めていた。それだけなのに。これが何故か面白い!作品の世界観に、いつの間にか惹き込まれて行った。

主人公の女の子ムイは、幼くして親元を離れ働いている。だいぶ苦労してるはずだ。
でも彼女の周りには静かさや、穏やかさだけが漂っているように見える。成長したらますます優しそうになって。彼女はほとんどずっと、微笑んでいた。

彼女の家事の様子は、見ているだけでも心が落ち着いた。
手際もよく、作る料理も美味しそう。
見ていると、丁寧に生活をすることの大切さがわかる。

基本静かな作品であまり心理描写に踏み込まないと思ったら。言葉では示さず、急に行動で示してくる人がいたりしてびっくりする。
例えば勤め先のお屋敷の子どもさん、親の影響でだいぶ不安定になってるようで。ムイに悪戯したり、それなりに大きな子なのに虫を殺したり。可哀想だった。

この子たちと主人公の少女とはあまり絆が深く描かれるわけでもない。でも長く勤められたということは、不思議な縁で結ばれていたのかな?となんだか感慨深い。

奉公してる立場ゆえか、描かれる人間関係には微妙な距離感があった。
思えばそれが妙な緊張感となって、作品全体を支配してるようにも思えた。
何が起こるわけでもないのに、見えない糸が常に張り詰めていた感じ。

主人公の女性ムイ。子ども時代も大人時代も性格が一致していて。演技力が素晴らしい。どこから出てくるのだろうこの穏やかさは?珍しい演技だと思った。

最後ムイの旦那さんとなった人も良い人そうで。
ただちょっと驚いたのは、告白?のシーン。男性が思いを告げようと、夜にいきなり女性の寝室なのか自室に入って行ったのは結構びっくりした。実際ムイも驚いていたし。
これ相思相愛だとしても、結構怖くないか?

…でもそこの詳細は省かれる。最終的に幸せそうだから気にしなくて良いということね。そんなこんなで、やっぱり穏やかに進む。

この作品、自然と共生する様も描かれていた。それも押し付けがましくなく。見ていてああ人間も自然の一部なんだ、と感じられた。劇中の人生、結婚も妊娠もそのサイクルの一部というふうに見えた。

こんな自然の風景や、言葉が少なくても進んでいく人生に、穏やかだが強い生命力を感じた。また生々しさも。

劇中ほとんど喋らない女性ムイ。最後の方で意外な反応を見せる。音読をしつつ「あ!赤ちゃんがお腹けった」っと明るく話す。これは嬉しい驚き。見ていて心が晴れるような気分になった。

御伽話を見ているような、それでいてリアルなような。後味が爽やかな、不思議な世界感に包まれた。そんな時間だった。