Omizu

深い河のOmizuのレビュー・感想・評価

深い河(1995年製作の映画)
3.6
【1995年キネマ旬報日本映画ベストテン 第7位】
『海と毒薬』熊井啓が遠藤周作の同名小説を映画化した作品。三船敏郎最後の出演作でもある。

インドツアーに参加した5人の日本人を主人公として、遠藤の生涯のテーマであった「キリスト教と日本人」を描いたのが原作。この映画では5人の主人公の一人であった沼田をカット、それぞれに交わる群像劇的側面をカットし、秋吉久美子演じる美津子と奥田瑛二演じる大津をメインに設定しているという違いがある。

インドを舞台に展開する異色宗教ドラマといった感じ。宗教ドラマといってもプロパガンダみたいなものではなく、真剣に人との関わり方を見つめている作品。『沈黙』の遠藤周作原作らしい深遠なトーン。

自分の生き方が分からない美津子、キリスト教神父を志す大津がメインとなる。美津子はかなりひどい女よね。大津をもてあそんだあげくあっさり捨てる大学時代も、パリで会ったときも誘惑したりとなかなかな悪女。

上手く生きる美津子と不器用に生きる大津の対比が興味深い。

ヨーロッパ中心のキリスト教はそれはそれで救いにはなるが、もっと広く考えるべき。信教は関係なく、ガンジス川のように広く深く人類を洗い清める、それが宗教というものではないかという遠藤らしい宗教観。

遠藤の原作を上手く脚色した作品だとは思うが、欠点も目につく。中途半端に群像劇的側面を残したせいか、美津子と大津以外の二人が何も解決せず終わってしまうのはどうか。妻の生まれ変わりを探す磯辺、戦争のトラウマを抱えた木口はもっと語られるべきだと思うんだけどな。

あと説教臭いのも目につく。『沈黙』は寓話のような話なので上手くいったんだろうが、概念を説明するような本作はやたら説教してくる印象。

でも遠藤の難解な小説をすごく頑張って映画化しているのは確か。熊井啓じゃないと大事故になっていたのは間違いない。これ以上この小説を上手く映画化できるかというと難しいと思う。名作というよりは珍作かなぁとは思うが、流石の出来だった。見応えはある。
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