horahuki

怪談佐賀屋敷のhorahukiのレビュー・感想・評価

怪談佐賀屋敷(1953年製作の映画)
3.9
怪猫+幽霊の最強タッグが牙を剥く!
主人を殺されたコマちゃん(猫)が怪猫と化し、復讐を開始する怪猫映画。

佐賀鍋島の猫騒動をもとに作られた作品で、戦後の怪猫ブームを支えた怪猫女優入江たか子の記念すべき怪猫一作目の映画です。

本作の根底にあるのは御家騒動。龍造寺家の家臣であるはずの鍋島家が国政の実権を握り、龍造寺家は無視されたという、家同士の力関係におけるイザコザを背景に置いている。そういった状況下で、鍋島家に仕える家老が妹を鍋島家の殿の妾とすることで権力を握ろうと画策。一方、殿は龍造寺家の娘を気に入っており、殿の妾の座を巡った黒い思惑が水面下で動き始める。家老は龍造寺家の娘について、あることないこと吹き込んで妹を殿に取り入らせるわけです。

一方、龍造寺家の方では「正室でなく妾とは無礼な!」的な発想と、娘には別に好きな人がいることもあり、縁談を断る方向だったため、龍造寺家長男の又一郎が殿に会い直接縁談を断る。気を悪くした殿のご機嫌伺いに再度訪ねた時に囲碁の勝負となり、ズルをした殿と口論に発展。又一郎は理不尽にも殺害されてしまう…。その復讐に乗り出すのがコマちゃん(超可愛い!(๑˃̵ᴗ˂̵))なわけです。

男たちの権力争いの道具とされる女性や、権力者・支配層による理不尽な仕打ちに対する死後の世界からのカウンターという怪談の定石を踏襲しつつ、家臣に実権を握られ続ける「家」としての屈辱を重ね合わせることで重層的な復讐譚となっている。

そして面白いのは、殿は基本的には善人だということ。でも『四谷怪談』の直助のように殿に対して悪魔的進言をする家老というキャラクターを登場させることで、善悪に揺れ動く殿の内面的葛藤の物語にも仕立て上げている。殿のもとに何度となく現れる又一郎の幽霊については、殿の罪悪感が見せた幻だと捉えることもできるわけです。又一郎殺害の原因となった囲碁を打つ音が幽霊出現時に毎回のように聞こえてくるのも殿の罪悪感を象徴しているように思える。

又一郎が殿のもとにご機嫌伺いに行く際に、裾を引っ張って主人を必死に止めようとするコマちゃんの可愛さは殺人級だし、主人の無念と龍造寺家への侮辱に対する復讐を誓って死体の横で血をペロペロするコマちゃんの不気味さも最高!暗闇からじっとこちらを見つめるコマちゃんも怖可愛い!

又一郎を止めようとするコマちゃんもそうですが、降りしきる雨や、油が残ってるのに突然消える行灯など、嫌なことが起こる予感を高める描写も考えられてるし、徐々に鍋島家へと入り込むコマちゃんもとても日本的というか時代劇的な演出で引き込まれる。障子って彼方側と此方側を隔てつつも、彼方側が透けて見えるという怪談における最強アイテムのひとつですね。

カットを割らずにどんどん顔が猫化する老婆のシーンは照明の色使いを変えることでやってんのかな。マリオバーヴァみたいな演出で驚き。その後のハイテンションなダンシングも好きだし、チャンバラの大立ち回りも時代劇っぽくて良い。

そして本作の怪猫であるコマちゃんを演じた猫は大映京都装飾部の居候でミイちゃんという名前らしいです。本作の後にも『怪猫有馬御殿』『怪猫岡崎騒動』と三本連続出演した実力派。本作では、チョコ+牛乳をあたかも血を舐めてるかのように見せる名演を見せてくれます。動物アカデミー賞があれば受賞間違いなしですね。
horahuki

horahuki