うめ

いつか晴れた日にのうめのレビュー・感想・評価

いつか晴れた日に(1995年製作の映画)
3.9
 アカデミー賞関連作、その7。第68回アカデミー賞で7部門にノミネートされ、そのうち脚色賞を受賞した作品。ジェイン・オースティン原作の『分別と多感』("Sense and Sensibility")の映画化。

 19世紀初頭のイングランド。貴族のダッシュウッド氏は亡くなる直前、前妻との間にできた息子ジョンに現在の妻とその3人の娘の面倒を見るように頼む。だが、ジョンの妻ファニーに軽視され、妻と3人の娘(エレノア、マリアンヌ、マーガレット)は田舎の屋敷で暮らすことに。そこで次女のマリアンヌは歳の離れたブランドン大佐に好意を寄せられるも、若く活発な青年ウィロビーと付き合っていた。一方、長女のエレノアは田舎に引っ越す前に知り合ったファニーの弟エドワードのことが忘れられずにいた。やがて彼女たちの恋が思いもよらない事態へ向かっていく…。

 アン・リー監督作を鑑賞するのは、今作で3作目。アカデミー賞監督賞を2度も獲得している人物だが、今まであまり良さが見出せていなかった。しかし、今作は「うまいなぁ〜」と思わせるシーンが多々存在して、ようやくアン・リーを少し知ることができたような気がした。特に印象的だったのは、全ての登場人物の動きを漏れなく映していること。一人一人に注目するよりも、ストーリー全体や画面全体を考えて登場人物を映しており、行き届いた、丁寧な演出だった。恋愛映画や人間ドラマを描くには、ぴったりの演出だと思う。

 また脚色賞を受賞しただけあって、ストーリーや台詞がいい。少しコミカルでくすりと笑わせる場面がありながらも、エレノアやマリアンヌの揺れ動く感情を過不足なく表現している。主に脚本を書いたのはおそらくエマ・トンプソンだろうが、共同脚本にシドニー・ポラックがいたのも大きいのではないかと思う。『追憶』や『愛と哀しみの果て』のように、ゆったりとした時間の流れを感じさせた。

 俳優たちが豪華。エマ・トンプソンはしっかり者の長女役にぴったり。とても知的な印象のある彼女が、時々見せるキュートな微笑みがまたいい。ケイト・ウィンスレットは当時20歳でまだ少女の可愛らしさが残っているが、それが世間に疎い未熟さを表していて良かった。ラブコメの帝王ヒュー・グラントはいつも通り甘いマスクをしつつも、今回は大人しいエドワード役。そのギャップもまた面白い。そして何と言っても、先月逝去されたアラン・リックマンの存在の大きさ。彼のような、いるだけで画面が締まる俳優がいなくなってしまうのは、とても悲しい。今作では途中で本を朗読するシーンがあるのだが、あの低音ヴォイス…もう聞けないのだなと思うと本当に切ないですね。

 エレノアとマリアンヌ、対照的な二人の恋愛の展開をわかりやすく描き出したことが、ストーリーの魅力の一つとなっている。原作の『分別と多感』にあるように、長女エレノアは分別で以て判断しエドワードに対する自分の気持ちを抑えていたが、一方マリアンヌはただ自分の感情だけで以て、よく知りもしないウィロビーと付き合い始める。この『分別と多感』(邦題より原題の”Sense and Sensibility”のほうが意味が掴みやすい)のバランスをどう取るかが恋愛において重要になるのだが、それがうまくいかないからこそ恋愛の喜びがあるのだ。ジェイン・オースティンの作品は全てこの喜びを詳細に描いているのだと思われる。貴族との結婚などといった時代背景は、作品の中では恋の障害の一つであり、それがある状態で行なわれる「恋の駆け引き」にいつの世の女性も惹かれるのではなかろうか。

 ジェイン・オースティンの作品を読まれた方、作品が映画化されたものを観てきた方からすると、お馴染みの展開なのだが、それでもアン・リーの演出もあってか、最後にじわぁと幸せな気持ちになれる。観てない方は是非、一度どうぞ。
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