映画スニーカー図鑑

ライフ・アクアティックの映画スニーカー図鑑のレビュー・感想・評価

ライフ・アクアティック(2004年製作の映画)
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Adidas Rom "Zissou" (主人公・スティーヴ・ズィソー率いるチーム・ズィソーのメンバーらが着用)
Adidas Originals The Lost Ones Zissou Trim Star(コラボモデル)


近年 “アメリカ人監督”と知ったときに最も意外な印象を受ける映画監督といえばウェス・アンダーソンだろう。何も知らずに彼の作品を観たら、九割の観客は彼のことをフランス人監督だと思うはず。そんな、アメリカ的な資本主義の臭いからある程度距離がある印象のウェス作品の中にスニーカー映画があるのは意外とも思えるかもしれないが、『ライフ・アクアティック』のアディダスは正直、超イケてる、クソオシャレな、美術品のような一品だ。ミニチュアのごとく徹底的にデザインされたウェス作品の、絵本のような画面世界を彩るパステルカラーと、クラシックなアディダスの相性は抜群としか言いようがない。その上、主人公チームのユニフォームの一部ともなると、余計にコレクター精神がそそられる。
 1960年に登場したモデル、Romをベースに作られた特注シューズは、映画の小道具として使用されたオリジナルが20足、本作出演のアーティスト:Seu Jorge(セウ・ジョルジ)が2017年の音楽フェスでサプライズ販売した再現モデルが100足生産されたのみの超・レアスニーカーで、“Rom”の刺繍の部分が“Zissou”に変更されている。2021年にイングランドのスニーカーショップ「size?」協力のもと”The Lost Ones”シリーズの一環として復刻されたモデルも少数生産だったが、こちらはベースモデルがRomaから1973年に登場したTrimm Starに変更している。
 ビル・マーレイ演じる海洋学者:スティーヴ・ズィスーのチームは、海底探検のドキュメンタリー映画シリーズを製作して儲けていたが、今や破産寸前。水色のジャージに赤いビーニー、それに白/青のアディダスを合わせたユニフォームはめちゃくちゃ可愛いのだが、アディダスからは3年前にスポンサー契約を切られているので勝手に履いているだけ、という劇中設定もまた絶妙にユルくて牧歌的だ。ウィレム。デフォーの写真が本当にいい写真で笑っちゃう。今となってはケイト・ブランシェットといえば圧倒的なカリスマ性と貫禄が溢れ出た現代で最高の俳優の一人、といったイメージだが、20年前の彼女が演じているヒロインの記者を見ると、印象があまりに違い過ぎて一旦再生停止し「本当にケイト・ブランシェット?」と確認してしまったぐらいだ。相変わらず上手いんだが……ていうか、声のピッチも今より遥かに高くない?相変わらず上手いんだけどね。主人公のビル・マーレイも、おじさん体型に白ヒゲに赤いビーニーに、パステルカラーの世界となると、どうしてもパパ・スマーフに見えてしまう。
 2005年の監督インタビューによると、赤いビーニーはズィスーのモデルの一人:ジャック・クストーから、青いZのロゴ入りセーターは30年代の映画からインスパイアを受けたそうで、アディダスに関しては思いつきだったそうだ。


衣装デザイン:Milena Canonero
登場・コラボ:どちらも