きらきら武士

ヘル・レイザーのきらきら武士のレビュー・感想・評価

ヘル・レイザー(1987年製作の映画)
4.2
次男と一緒に鑑賞。

観て、後悔した。
しまった、もっと早く観ておけば良かった…。

こっちの勝手な思い込みだが、ポスターや宣伝写真を見るたびに、あの釘が沢山刺さった痛々しい釘頭の人が、得意げに「どーだ、すごいだろ。怖いだろ。参ったか。」と凄んでるような気がして、「間に合ってますぅー」とへそを曲げてしまっていたのである。天邪鬼め。痛いのはお前の方だ。

映画は低予算な感じで、今観ると特殊効果などはさすがに古びてショボかったが、それを補って余りある堂々たる王道ホラーの風格。血!粘液!怪物!超常現象!SEX!とホラー映画の鉄板ネタのフルコースで、テーマも古典的・普遍的で作りとしてむっちゃ好みだった。ツボ押されまくり。そしてあの釘頭の人は、序盤と終盤に出てくるだけで、いつも出てくるわけではなかった。アイツがスラッシャー無双する映画、というのでは全然なかった。自分の思い込みの強さが怖い。

ストーリーとしてはホラーの王道も王道、人間関係のねじれがベースとしてある。主要な登場人物は夫、後妻、夫の兄、先妻の娘、の4人。なかでも夫の兄がインモラルな野郎で、快楽を追求するあまり冥府魔道の修道士(セノバイト)達を召喚してしまうという輩。そしてコイツとの不義SEXにドロドロに溺れて「何でもする」と誓った過去を持つヤベー妻。

あと、ラーメン定食の餃子ぐらいにホラー映画に鮮やかな彩り(お得感ともいう)を添えてくれる「SEX」、が本作ではガッツリ、テーマの中心にある。「SEX」がもたらす「快楽」と「苦痛」。それが本作の深遠なるテーマだ。究極、SEXが深遠かどうかは脇に置く。
登場人物達は皆発情気味で視線がネットリ、性的な雰囲気を濃厚に漂わせている。そしてハニートラップ(美人局)に簡単に一本釣りされるオヤジども、乙。ここだけはちょっと動物ドキュメンタリー番組を見るような気分だ。あらら、捕食されちゃったね。

視線といえば、夫役の俳優さんの目つきがギラギラと実に不穏で、こいつは果たして黒なのか白なのかノーマルなのかアブノーマルなのかはっきりしない、際(きわ)をなぞるような演技で良かった。彼は最後に炸裂してくれる。
後でネットで知ったが、お名前はアンドリュー・ロビンソン。『ダーティハリー』で連続殺人犯スコルピオを演じた俳優さんだ。「あのクッソ胸糞悪いアイツか!」と久しぶりに思い出して胸糞熱くなった。彼の演技も本作の魅力に大きく貢献している。

話を戻す。

「究極の快楽」に至る「究極の苦痛」があるのだという。

映画の冒頭。快楽の探究のあまり、モロッコまでヤバイ物を買い出しに行ったインモラル兄は、そこで怪しげなパズルボックスを手に入れる。

ムフフフ、これで究極の快楽が手に入るに違いない!
いざ召喚! ビカーーーッ!!

(惨劇)・・・・・

ああああーーーっっっ!!!!!!!!!
(思ってたんと違うーーーーっっっ!!!!)

求める快楽が上級者過ぎたのである。
中級者がやりがちな過ちである。
しかも、この場合は命取りな過ち。

しかし、本当に「究極の快楽」には「究極の苦痛」が必要なのだろうか? 
SM性愛の世界では、苦痛を与える側と頂く側でちゃんと共犯関係が出来ているからそこに快楽が発生するのは理屈としてわかる。その関係がないところで、望まない「究極の苦痛」を一方的に与えられるのは、それはやっぱりただの苦痛でしかないような気がするのだが、どうか。
やはりそこは一部の超・上級者の世界なのだろう。痛いのが嫌いな私はとても彼らを召喚する気にはなれない。

性的な快楽とは違うが昔、腹をナイフで掻き回されるような激痛に半日耐えた挙句、もうダメだと救急車を呼んで搬送してもらったことがある。救急車が次第に近づく音を聞き、遂に救急隊員さん達が部屋まで来てくれて救急車に乗せてくれたあの時の「助かった…」という安堵感は、最高の快楽だったと言えなくもない。しかし、あんな体験は二度とゴメンである。(腹痛は虫垂が壊死して腹膜炎を起こしていたものだった。よくそんなに長く耐えられましたね、と後で医者に言われた。)

「究極の快楽」に至る「究極の苦痛」というものが実際本当にあるのか、興味深いところだが、深入りは避けておこう。

それにしても「究極の快楽=苦痛」の伝導者?救済者?であるセノバイト(修道士、魔道士)達。召喚のためのパズルボックスを解くと、厳かな声で
「呼ばれてやって来たぞ・・・(ズゥゥン)」
と言う割には、パズルが簡単過ぎる。何なら後半は手を触れてないのに箱の方が勝手に自分で動いてパズルを解いていて笑ってしまった。釘頭、怖いのに愛嬌あるね。これは確かにホラーヒーローになるわ。(元々、クライブ・バーカーはグラサンでぶの方をリーダー格で考えていたらしいが、特殊メイクを盛り過ぎた結果、セリフを喋れなくなったから釘頭の方に変更したのだとか)

セノバイト達のデザインが本当に秀逸だ。カトリックの修道士×パンク×SMボンデージ。知的で異次元世界の孤高の存在。
個人的にはマンガ、ベルセルクのゴッドハンドの元ネタはここだったのか!と喜んだ。天国の三浦先生 ! 彼らの出現シーンといいモロパク…、いや、ものすごく影響を受けたのですね。ほかにも、歯茎むき出しの「かちかち君」はバイオハザード3の追跡者がモロにソレだった。今頃の話だが、後の作品への多大な影響がわかったのはちょっと気持ちよかった。

続編は、あまり評判がよろしくないようだが、暇が出来たらまた次男と一緒に観てみたい。
昔読んだクライブ・バーカーの『ミッドナイト・ミートトレイン 真夜中の人肉列車』血の本をまた読み返してみるのも悪くない。実家の自分の部屋の本棚にあるはずだ。

ホラー映画の満足度としては満点の4.0。早速2回目も観た。色々楽しめるところが多かったので0.2加点して4.2としよう。

#2024 #21
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