ぷかしりまる

D.I.のぷかしりまるのレビュー・感想・評価

D.I.(2001年製作の映画)
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フランス語版鑑賞
アクシデントにより字幕無

コメディ映画ということを鑑賞後に知ったが、特に序盤は、日常生活における突発的な暴力の連続、その異様さを客観的に淡々と描く姿勢のために、ホラー映画だと思っていた。
まず、ひとびとの様子からそのような印象を受ける。梯子をかけて屋上へ登り、大量の瓶を乾かす老人が何度も映される。わたしはリサイクルしているのかと思った。老人は(イスラエルの?)警察の姿を認めると、突如その瓶を投げまくる。わたしは瓶の暴力的な用途と、行動の理由がわからないことに度肝を抜かれた。そのシークエンスでは、捕まるまでの姿が引きで撮られていることで、場面の激しさが抑制される。二人の別の老人は、それを驚きもなく見つめる。これより日常レベルでの暴力の異質さを、客観的に、淡々と描く姿勢がうかがえる。それは瓶老人が殴られる場面にも現れる。その家に主人公の父親(?)が突如入ってゆき、殴る音と喘ぎ声だけが聞こえた後、出てくる場面である。暴力に感情のない乾いた印象は『アウトレイジ』を彷彿とさせた。リフティングをしているうちに、屋上にサッカーボールを蹴り上げてしまった子どもに対し、瓶老人がボールに穴を開けて返却する場面も、わたしは意味が分からず恐ろしかった。せっかく警察が瓶老人の家の前の道を舗装した後、瓶老人がそれを壊す場面も意味が分からなかったが、今考えれば、たとえ快適さを約束されても、警察の介入を拒むという姿勢の表れだったのだろうか。
西岸地区の女性がイスラエル人(?)の家に火を放ち、銃弾を撃ち込む場面のスピード感も、生活空間における突発的な暴力を、当たり前のように淡々と描いている。
キートン似の主人公が全然瞬きしないのも、異様だった。

学生の集団が何かをリンチしていて、長いこと棒で殴ったり蹴ったりしている場面が印象に残った。なぜなら何なのかは遮蔽物で見えず、そこへ拳銃を持った大人がやってきて発砲するためだ。わたしは、それが人間だったらどうしようと不安になり、焦った。するとそれが毒蛇であることが分かり、炎で燃やされる。ラストの鳴りやまない圧力鍋といい、暴力性の伴った緊張感の高まる演出が意図的になされている。

ユーモアのあるシーンが総じて、検問所の通過にかんしていたり、イスラエルの戦車の爆発だったり、ケフィエをかむった女ニンジャがイスラエル兵を成敗したりと、抑圧されたパレスチナの鬱屈が解放されるような状況設定になっている。笑いと怒りが共存するバランスが絶妙だと思った。

わからなかった部分。分からない部分の方が圧倒的に多いが…
壁のポストイット、アラファトが風船に描かれている意図、冒頭のイェルサレムに追い込まれる(?)サンタクロース、お互いに対する思いやりのない人々が意味するもの(占領下で精神的に異常な状態になっている、ということなのだろうか。感情もなくごく普通に、自分の家のごみを隣人の家の庭に捨て続ける男の会話シーンにヒントがある気がする)、ナンバープレートをひっぺがして鳴る警報、検問所でのデート、バス停で女を見つめる謎の男(これは笑う場面だったのだろうか…)。

多分わかった部分。
パレスチナの救急車が検問所で足止めを食らう場面と、イスラエルのパトカー(?)がビュンと通り抜ける姿が対比的に描かれること。

かっこよかった場面。
夜な夜なタバコを吸いに行く患者たちが、病院の中でタバコをふかしながら細い廊下をうろうろするシークエンスには、群像劇が始まりそうなオシャレさがある。奥から前方に歩いてくる老人たちが、掴まる点滴スタンドで画面を二分してから場面が切り替わるのもグッとくる。