鮭茶漬け

ウルガの鮭茶漬けのレビュー・感想・評価

ウルガ(1991年製作の映画)
3.9
ニキータ・ミハルコフ監督の91年金獅子賞受賞作
見終わった後、良い作品だとは思ったが、正直言うと何故金獅子賞を獲ったのかわかりませんでした。というのは、この映画は撮り方があまり上手くないと感じた(調べてみると、かの蓮實氏もそう言っていたようだ)し、だらだら続く中盤までとその後のよーわからん展開を見て「結局これはなんだったんだ」と思ってしまった。

ただ、分からないのも悔しいのでいくつか考えてみました。以下、ネタバレしてます。

・前半の内容および画面の退屈さはもしかしたらミハルコフの意図的な演出なのかもしれません。草原での素朴な(原始的な)生活を映すのに美しいショットなど必要なく、素朴なものは素朴に撮ればいいと。そうすれば後半に訪れる、近代化そのものの勢いのように異様な熱量を持った展開が対比的に印象付けられます。今思えば後半は内容も画面もまだマシだったかもしれない。

・ラストまでは近代化に対して否定的な描写が続きます。テレビの購入により主人公が見る不吉な夢は、近代化という得体の知れない何か大きなものが、さながら帝国勢力の如く今までの平和な暮らしを奪うことへの不安でしょう。子ども・おばあさんが見るテレビに主人公夫婦の喧嘩と行為のシーンが映るのは、いままで見られなかったこと・見たくなかったことが簡単に見られるようになる時代の到来を意味しているんじゃないか。

・ただ、ラストショットでは、草原に立てたウルガが工場の煙突へと変貌します。狩猟と生殖という原始的生活を支えた道具が、近代の暮らしを支える工業の道具に変わり、草原に訪れた近代化が印象付けられるショットですが、ここでは草原自体は失われていない。すなわち、草原での暮らしは維持されつつも近代化が進む、そんな自然と近代化の共存する明るい未来を表しているとわかります。どんな場所にでも時代の変化が訪れますが、今までの生き方が失われることをただ恐れるのは愚かであると。

・そして思い出されるのは、セルゲイが車で川に落ちかける場面。あれは単に笑うシーンだけではないと気づきました。すなわち、車は草原にもたらされる最初の近代化の一つであり、この映画の終着点と草原の辿る未来を象徴したショットだった。セルゲイの車は川に落ち切ることもなく、ガソリン流入など川を汚染することもなく、川縁に傾いた状態でとどまりました。この状況はまさしく草原と煙突の関係と相似で、自然と近代化が共存する未来の示唆だった、という。

ただ、もう一度見ようとは思わない、笑
VHSしかないようでHDリマスターされたらもっと印象変わるのかな。
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