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最高殊勲夫人のTnTのネタバレレビュー・内容・結末

最高殊勲夫人(1959年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

 何このはちゃめちゃラブコメは笑。増村的な社会を舞台に展開しつつ、恥ずかしいぐらいわかりやすい人間の恋愛模様を軽快に見せていく。増村映画は恋愛と資本主義がバトる構図が多いが、いつもなら「されど恋愛」という重きがあるのに対して、今作は「たかが恋愛」な映画として、軽快に小気味好く人間模様を描き出す。

 まず増村映画にありがちな女は本気(マジ)だが、男はやや鈍感という構図が見られる。これはいつもだと男が資本主義に手を染めたクズとして苛立ちを覚えたりするのだが、今作は単にもどかしいなぁと思わされる笑。映画館で観たら「意地はってないで付き合っちゃいなよ!」みたいな野次が飛びかねないなこれは。だから二人がラスト、喧騒にかまけて心の中を打ち明け急接近する時の幸福感とピュアっぷり(「好きだ!」「え?聞こえない!」)。その後、フラれた男にカメラはパンして(これも全然ビターテイストではない)、その後ロカビリー酒場の壇上で歌を歌うと別の好きだった女に抱きつかれハッピーエンドって…強引じゃん、だけど最高じゃん。今作、二人の恋愛騒動に振り回されまくって失恋を味わう側もいるが、あれよあれよと別な恋愛を成就していくミラクル(?)が起きるのだ。惚れるも腫れるも、今作じゃどっちも可愛げがあってオモロさに傾いているのだ。

 増村保造、年に3〜4本映画を撮るという手際の良さも相待って、作品それぞれは深みに欠けるところがやや傾向としてある。それは画面の構図にしろ、役者の演技にしろである。際立つ極端な演技の姿は、しかし表層的だからこそ取っ付きやすいし、今作はその恋愛に関するわかりやすい人間の感情を愛でる映画として演技方法がマッチしている。結果全員のお惚気を見てた映画だと気がつく。

 にしても若尾文子、良すぎ。キャッチボールを拙くも楽しむ姿も、「私は私ですわ」と言って凛とした態度も。社会は昭和的な価値観満載だけど、それに対抗しうる態度は結局「私は私ですわ」だなぁと。ラストの写真撮影での変顔は、最高殊勲夫人の座に値する(夫もなお良し)。てかあのラストカットだけ、時代を超えて超現代的ショットじゃないか?(なんか椎名林檎のジャケ写みたいで良い)。あれ見るための映画と言っても過言じゃない。
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