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丑三つの村のsithmaroのレビュー・感想・評価

丑三つの村(1983年製作の映画)
3.5
YouTubeの松竹シネマPLUSシアターで期間限定で無料公開されていたので、久しぶりにに鑑賞。

しかし、とにかく疲れる映画だ。
毎回見終わるとぐったりしてしまう。
初めて観たのはいつだったか…
「もう、こんな映画は観たくない」と思っているのに、機会があればついつい観てしまう。
もとはと言えば『八つ墓村』のモチーフにもなったという実在した事件、「津山事件」を描いた映画があると知って興味を持ったからだった。
初見では凄まじい映画だと思ったものだが、慣れとは怖いもので、改めて観ると「こんなもんだっけ?」と感じてしまった自分自身に戦慄する。

しかしこの映画は全体的に狂気に包み込まれている気がする。
村人達の閉ざされた社会ゆえの狂気。
「お国のため」という大義名分で人々を戦争に駆り立てる国の狂気。
しかし一番恐ろしいのは主人公の内に秘めた狂気ではなかろうか。
病気を理由に兵役を拒否され、村人からは後ろ指をさされ、終いには面と向かって拒絶され、アイデンティティが崩壊していく中で、彼の内で培われていく狂気。
精神が壊れて発狂したとかではなく、冷静に虎視眈々と「自分の戦争」のために準備を進めていく様は観ていて本当に恐怖を感じた。
これらは同時に「私も同じ境遇であったら…」と、どこか主人公に同情的になってしまった視聴者としての私自身の狂気と言えるかもしれない。

そして忘れてはならないのが濡れ場。
この映画は濡れ場のシーンも多い。
「夜這い」という村が抱えた問題を描きつつ、主人公の怒りの矛先になっているのは興味深い。
一つ一つの濡れ場がしっかりと物語に組み込まれており、それでいて「昭和のエロス」を漂わせている。
しかし初見はともかく、2度目以降の鑑賞となると、ここもまたトリガーになっていると考えるとやるせなくなってしまう。

ショッキングな内容の映画だけに迂闊にお勧めできる映画ではない。
でも生涯に一度くらいは観ておくべき作品でいるとも感じる。
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