なべ

スキャナーズのなべのレビュー・感想・評価

スキャナーズ(1981年製作の映画)
3.7
 わはははは。まさかスキャナーズがスクリーンで観られるとは。これもコロナ禍のおかげか。スコアは気持ちの上では満点だけど、冷静に3.7とした。

 LD、DVD、Blu-rayとメディアが変わるごとに買い換えてるお気に入り作品だけど、好きだというのが憚られるようなチープでファナティックな珍品。一応監督はあのクローネンバーグだけど、まだ駆け出しの頃の作品で脚本も演出も甘々。でもシンパらの熱狂的な支持を得て、今やカルト化してる。もしかしたら頭部破裂の元祖なんじゃなかろうか。案外、「兄さん、頭が痛いよ」でおなじみのNight Headなんかもスキャナーズが源流だったりするのではないか。
 確かに今見ると展開が唐突だったり、伏線の張り方が雑だったり、モノローグで真相を告白したりと脚本の杜撰さは否めないんだけど、それでもなおスキャナーズはおもしろさに満ちている。
 それは冒頭のモールのシーンでも顕著。他人の食べ残しのつまみ食いや、中年のおばさん(この役はビッチな若い子が演じるところでは?)の勘違い自惚れ、昏倒してからのミニスカートの乱れ具合など、不思議なツッコミどころというか、オフビートなズレ加減がたまらん!
 一応、製薬会社の薬害や陰謀なんて背景はあるものの、主に描かれるのはスキャナー(能力者)たちによるサイキックバトル。相手の心を読んだりマインドコントロールしたりするのが主な見どころ。要は顔芸が肝な映画。能力を行使する(される)ときの苦悶の表情を楽しんで欲しい。
 マイケル・アイアンサイドなんて、スキャナーズでの演技がその後の役者人生を決定づけたと言っても過言ではない。これ以降の出演はB級SFばっかだもん。

 あ、公衆電話から製薬会社の機密情報にアクセスするシーンがあるんだけど、これ、若い人にはわかりにくいかもしれない。インターネットが普及する前は、データを送受信するのに電話回線を利用してたのね。データを音信号に変換して、カップラーに受話器を装着してデータをやりとりしてたんだわ。めんどくせーw 今ならWi-Fiを使って侵入できるから、発熱で受話器をドロドロに溶かすなんて描写はもうできないな。
 普段はテレビモニタでの鑑賞だけど、スクリーンで観る価値は充分あった。大画面に耐えうる画で撮られていたことがわかったもの。目の肥えた今の観客を満足させるクオリティではないかもしれないけど、そこはクローネンバーグ。その後の才能を予感させるセンスがそこかしこに感じられた。拙くはあるけど、悪くないSFサスペンスだと思う。あの容赦なく突然終わるクローネンバーグスタイルがこの時すでに完成していたのがすごいね。もし興味が湧いたなら、ぜひ一度ご覧あれ。
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