たく

愛情の瞬間のたくのレビュー・感想・評価

愛情の瞬間(1952年製作の映画)
3.6
倦怠期の夫婦に偶然訪れた浮気の発覚をきっかけに、夫婦それぞれの隠された思いが回想を通して明らかになって行くジャン・ドラノワ監督1954年作品。この監督は、内容を覚えてないけど「賭けはなされた」を昔に観て絶賛してた。夫婦がお互いの主観で語っていくところに主張の食い違いが見られるのがスリリングで、それでも収まるところに収まる夫婦の形にベルイマンの「渇望」「歓喜に向かって」を連想させる。ミシェル・モルガンの凛とした美しさに気品が漂い、愛に苦悩する役を見事に演じてた。ジャン・ギャバンとの共演作には「霧の波止場」があり、同作でもその美しさに惹きつけられた覚えがある。ジャン・ギャバンは珍しく嫌な男の役だったね(「殺意の瞬間」もモテない役で珍しいと思った)。

冒頭で、娘に歴史を教える町医師のピエールと舞台女優である妻のマドレーヌの三人の姿に幸せそうな家族の形が示されたところで、自殺未遂の男の現場にかけつけたピエールが男とマドレーヌとの仲睦まじそうな写真を発見する。ここから妻を問い詰めるピエールと、真実を告白していくマドレーヌの回想が描かれていく展開で、マドレーヌの一方的な主張だけでなく、回想中に登場するピエールのその時の心情をピエール本人も主張するやりとりがぶつかり合うのが新鮮。

マドレーヌが結局は浮気を認めることになるんだけど、夫を愛するからこそ過去の浮気を正直に話すという図式はちょっと「しのび逢い」に似てる。この「信用できない語り手」のことをピエールが受け入れるのかどうかというのがリアルな人間ドラマになってて、ラストのマドレーヌのなんとも言えない表情にほろ苦い余韻が漂う。原題“LA MINUTE DE VERITE”は「真実の瞬間」という意味で、それはマドレーヌが夫への愛を確信した瞬間であり、ダニエルがマドレーヌの目を見て本心を悟った瞬間でもあっただろうね。
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