Eike

扉をたたく人のEikeのレビュー・感想・評価

扉をたたく人(2007年製作の映画)
4.0
「語り口の巧さ」が際立ち、地味な配役&シリアスなテーマながら物語がスっと心の琴線に触れて来るような佳作。
原題は「訪問者」ですがこの邦題も悪くないかな。

人生に倦んだ初老の大学教授ウォルター(R・ジェンキンス)がひょんな事から不法滞在の若者タレクと出会い民族楽器、ジャンベの演奏の手ほどきを受けることで人生に活力を取り戻してゆきます。
移民局に摘発されて収監されてしまったその若者を救い出そうと奔走するウォルター。
彼はその渦中でタレク青年の美しく気高い母、モウナ(H・アッバス)と出会います。
懸命にタレクを取り戻そうとする二人の間にはいつしか強い絆が生まれるのだが…。

とかく「見栄えとお約束」に偏り過ぎで物語を語る力が極端に低下している気がする昨今のアメリカ映画の中で本作のような作品に出会えて久しぶりに嬉しくなりました。
決して長くはない上映時間(1時間44分)の間に起伏のある展開だけでなく登場人物たちの心の揺らぎや不安、そしてかすかに灯った希望がきちんと描かれていてとても豊かな物語が紡がれております。

主演でオスカーにノミネートされたR・ジェンキンスは正に渾身の演技を披露。
はっきり言ってかなり性格の悪い奴として描かれている主人公がいくつかの出会いを通じてどのように変化して行ったか、その軌跡を見事に演じております。
台詞自体がそれほど多いわけではなく、性格的にも控え目とも見える主人公の心象が絶妙のニュアンスで表現されていて、共演者たちの好演もあって実に見応えがあります。
ある男性の成長の物語であり、熟年男女の切ない恋愛映画としても良い出来です。

社会的なテーマを扱ってはおりますがヒステリックにその点を叫びたてるようなものにはなっておらず、あくまで一人の男性の変化を通じてメッセージを届けようとするアプローチにも好感が持てます。
クライマックス、無心でジャンベを打ち鳴らす主人公の姿が見せる雄弁さは十分にドラマとして堪能できるものになっていると思いました。

リチャード・ジェンキンス氏は今も貴重なバイ・プレイヤーとして引っ張りだこ。こういうポジションで輝きを感じさせる役者の方も少なくなった気がしてちょっと寂しいなぁ。
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