mimitakoyaki

扉をたたく人のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

扉をたたく人(2007年製作の映画)
4.3
静かで地味な作品ですが、とても心を打つヒューマンドラマでした。

主人公が年配の堅物大学教授で、このおじさんがまず地味なんです。
それでなのか、なぜか30〜40年前の作品のように見えますが、01年の同時多発テロ以降のアメリカが舞台です。

この教授ウォルターが、全くもって面白みのない人間で、ルーティンのような毎日を淡々とこなすだけという雰囲気です。
周りの人にも打ち解けず、自分の殻に閉じこもってる孤独な初老の男なのです。

本題が「Visiter」なので、このウォルターを誰が訪れるのかを注目して見てたのですが、冒頭シーンで彼の部屋を訪れるピアノの先生、学生、同僚に対して、けんもほろろな塩対応で、偏屈で冷たいオッサンやなという印象を持つのですが、仕事でNYを訪れることになり、かつて住んでいた家に久々に戻ってからはこの構図がガラリと変化し、そこからウォルターが、思いがけない人との出会いと関わりの中で、人生に彩りを取り戻して人間味を帯びてくるんですね。

前半は、シリア移民のタレクとその彼女でセネガル出身のゼイナブと知り合い、タレクのジャンベがウォルターとの絆を深めていき、セントラルパーク?のシーンはとても多幸感があって、ウォルターが空虚な人生から新しいものが生まれ出し変化した瞬間があったのですが、その直後に思いがけない事件が起きてしまい暗転します。

911事件以降のアメリカで、移民への取り締まりが強化され、特に中東出身だとテロリスト扱いされたり、差別されたりが社会問題となりましたが、ここでその厳しさと非道な人権侵害が描かれて、あまりの理不尽さに怒りと悲しみで泣けてきました。

些細なことで不当に逮捕され、いきなり入管施設に収監される。
何らかの事情で手続きに不備があり、それがきっかけで入管に収監され、人間扱いされずに命さえ落とす人がいる。
日本でもそんな入管施設での事件が大きな問題になりましたが、その国で何年も何十年も生きてきた人達なのに、家族との生活があったのに、いきなり問答無用に引き離されて、裁判も何もなく、無権利状態に陥ってしまう恐ろしさを感じました。

ちょうど先日見た、韓国移民の悲劇を描いた「ブルー・バイユー」でも同じようなテーマがありましたが、911事件後やトランプ政権下などでは、移民が敵視され、こうした弱い立場の人が暴力的に排除されるという事が起きてしまうのが、とても悲しいし憤りを感じます。

あんなに他人に無関心で惰性で生きてたウォルターが、怒りを露わにして声を張り上げるシーンやラストの地下鉄のシーンは、ウォルターの怒りと悲しみ、タレクやモーナへの想いが溢れ出る素晴らしいシーンで、胸に響きました。

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