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扉をたたく人のodyssのレビュー・感想・評価

扉をたたく人(2007年製作の映画)
4.0
【佳作という言葉はこの映画のためにある】

派手なところはないけど、きちんと作られた映画です。佳作という言葉はこういう映画のためにあるのでしょう。

老いて子も独立し妻にも先だたれ惰性で生きている大学教授が異質な者たちとの出会いで自分を取り戻していくお話。ありがちな筋書きのようだけど、いくつか目に付いたところがありました。

亡き妻はピアニストで、残された老教授もピアノを習っていますが、どうもうまくならない。ピアノを初めとする西洋クラシック音楽は大学教授みたいな職業にある人にとってはある種の欠かせない教養ですが、妻の職業や単にCDで聴くだけならともかく、自分がやる音楽としてクラシックに入っていけない彼の様子がまず示されています。

それが、移民との出会いでアフリカの音楽ジャンベに馴染んでいくのは、すでに彼が別の世界に入りかけているからです。しかし、一方でいったん大学に帰ってからNYのアパートに戻ってくるとモーナは亡き妻の弾いたワルトシュタイン・ソナタのCDを聴いている。これは一つにはヴァイル教授の亡き妻がどういう人かを知っておきたいという気持ちからでしょうが、他方では自分も移民であるモーナには西洋クラシック音楽が魅力的に感じられるということでもあるでしょう。つまりヴェイル教授とモーナはそれぞれに自分とは異質な音楽に惹かれているわけです。

この映画のテーマは移民問題ですが、作中でも言われているように9.11以前と以降ではアメリカの政策がかなり違っており、それが弱者にしわ寄せされる結果となっています。カフェでモーナがヴェイル教授を待っているとき、自分も同郷でグリーンカード(アメリカ永住権)を獲得したという店主がモーナに飲食代をおごってやるシーンがありますが、多分この店主もグリーンカードを得るまでに苦労を重ねたのでしょう。弱者同士の思いやりがさりげなく描かれています。

他方、ゼイナブが作って露店で売っている装飾品を買っていく婦人が、ゼイナブがセネガル出身だと聞いて、「ケープタウンのあるところね」と応じるシーンがありますが、これでその婦人がアフリカの地理を全く知らないことが分かるわけで、恵まれた立場にある一般のアメリカ人が外国の事情に通じていないことが皮肉に表現されているのでしょう。

俳優も主要な4人が実にいいですね。特にモーナを演じるヒアム・アッバスの美しいのにはちょっとびっくり。こういう中年美人が私の近くにもいれば人生楽しくなるだろうな、などと思ってしまいました。
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