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トスカーナの贋作の&yのレビュー・感想・評価

トスカーナの贋作(2010年製作の映画)
4.8
【(6)2015/1/8:横浜シネマリン】
ディスコミュニケートなドーナツトーク、見えない対象、「真」と「贋」の錯綜。不安定な散歩みたいな作品。

キアロスタミの映画って、映画の可能性の外側で生まれたような斬新さと、反して昔から知ってるようなフレンドリーさがあって、わけわからなかったりもするけどもっともっと籠絡されたい!と願ってしまう不思議。
だから合わないって人がいるのも、わかる気する。

わたしは人付き合いをする上でまず最初、その人と自分が共通言語(実際話す言葉とは無関係なもっと感覚的なもの)を持っているかどうかを見極めようと試みる。
この作品は、感覚的共通言語を持たないコミュニケーションで起こる齟齬を、実際話す言語の違いによる齟齬としてメタファー化というかシミリ化していて、それがとてもフレッシュで(字幕を読みつつ「今何語で話してるか」に意識集中させ必要あり)。
個人的にはただこれだけでもう十分偏愛たり得る要素。

そういえば、先日ある人に、今どんなデートをしてみたいかを質問された。
あまりに唐突で返答に窮したのだが、少し考えた末「ただ歩いて話して、疲れたら休んでまた歩くだけがいい」と答えた。
日頃モテなさ過ぎて何も思いつかなかったってのももちろんあるけど、わたしはどんなステキなデートよりもただ、共通言語を持つ人と、時にはあえて異言語を弄びつつ、言葉を貪り、遊び、意思ある迷子に興じたいんだなと思った。
そういう時の、人格から独立して言葉が立つ感じ、そして人格を食ってくるあの感じが、たまらなく好きで。そしてこの作品は、そんな瞬間に満ちている。(わたしの理想デートこれだよ!!)

言葉が意思を持つ「贋」であるならば、人格は「真」、本物ってことなんだろうか。だとしたらわたし本物なんて全然興味ないな。この作品を埋め尽くす「贋」の方が、ずっときれいで居心地がいい。

美しい映像とともに、退屈な戯言を誘い出す、ごくプライベートな作品。こんなのにまともな感想文なんて書けません。大好きです(愛)。
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