佐藤

タチャ イカサマ師の佐藤のレビュー・感想・評価

タチャ イカサマ師(2006年製作の映画)
4.0
【イカサマ師たちの生と死】

※ネタバレが含まれます





僕が最も注目したのは銃を突きつけられ、そこから去るシーンでした。

動揺を見せず、相手から自然に距離を取り、またやはり自然に去っていく。
まったく見事でした。

ただ、彼の行動には不可解な点がある。

彼は、頭に突き付けられた銃からいきなり離れ、しかも弾道を外すわけでもなかった。
それはなぜなのか。
普通ならまず、相手が咄嗟に撃ってしまわないように急な動きはせずに少しずつ離れるか、もしくは弾道を外そうとするはず。
撃たないと確信していたのか、それともよく考えずにそうしたのか。

おそらくはどちらでもないのだろう。
銃を突きつけられ、相手の様子からしても、まったくの脅しとも思えない。
しかし、軽率に撃つ相手とは思わない。

つまるところ、彼は気軽な気持ちで自らの死を賭けたのだ。

彼はギャンブルにおいては無類の強さを誇るのだろう。
しかし、彼は「ギャンブラー」だった。
確率や正しい論理からの決断ではなく、ただ賭けたのだ。
ギャンブルを「始めた」ものが文字通り最初に覚える、コツや鉄則、常識とすら呼べないそれ。
不必要で割に合わない賭けはしない。
彼はそのルールを破った。

そうして「あの」勝負に負けた。



相手は、下から札を引いて配った。
これは言うまでもなく、トラップだった。
下からカードを取って配るのはニアリーイコールよりもイコールイカサマと言っていいほどポピュラーすぎるそれだし、あまりにも目立ちすぎるそれでもある。
ポーカーでもブラックジャックでもバカラでも、カードを扱うギャンブルをほんの少しでもまともにプレイをしてきた人なら知らない人はいないし、そういうギャンブルをしない人でも一定層は知っている。
基本中の基本中の基本中の基本のキの一画目と言ってもいい。
そんな昨日ルールを知った人でもしないような手を相手が使ったのだ。
それに対して、彼は銃を突き付けられた時と同じようにまったく気軽に死を賭けた。
彼は死に向かって意気揚々と猛進した。

彼はきっとそれまでも何度も何度もそんなことを、いやずっとそうして生きてきたのだろう。
いつかはこうなると分かっていたはず。

もしかしたら、それを遂げてくれる相手を探していたのかも知れない。
だから、彼は相手との勝負を「切望」したのか。



この作品は、元々は僕がポーカーを趣味にしてることもあって、フォロワーの梅ちゃんのレビューでこのシリーズの三作目である「タチャ ワン・アイド・ジャック」を知って、TSUTAYAに借りに行ったのですが、返却日が未定(借り放題サービスのため)だったので、同じシリーズの一作目であるこの作品を借りた形でした。
多分、趣味というレベルを何段階か超えてやってると思うので、日本だからいきなり殴られたりとかそんなことは滅多にないし「他競技」ではあるけど、僕も色々気を付けなきゃなあと思ったりしました。

ちなみに、補足情報ですが、韓国ウォンはこの20年で上がり下がりはあったもののだいたい日本円で0.09円です。
平均収入は大企業でも年収500万円台で、工場作業員なんかだと月収7~8万です。
日本はトップ企業だと年収1700万ほどです。
なので、作中で登場人物たちが言う1億とか4億とかはどんぶり勘定で1000万円とか4000万円ということですが、韓国の平均収入に照らし合わせると、現地人にとっては1億ウォンなら日本在住の人にとっての2500万円くらいの価値があるということです。
佐藤

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