佐藤克巳

女優の佐藤克巳のレビュー・感想・評価

女優(1947年製作の映画)
5.0
島村抱月を、小山内薫と築地小劇場を開設した土方与志が新劇運動の苦衷を知り尽くしたかの様な淡々とした演技は見事だったが、衣笠貞之助監督は、松井須磨子の生涯を被らせて山田五十鈴の演技力を更に磨きをかける作業に成功している。また、同年競作となった山田の育ての親たる溝口健二「女優須磨子の恋」を完全に凌駕したバックステージ物映画出色の傑作である。新劇界草創期の文芸協会一期生が講義を受けダンス・歌の訓練に励む様子が丹念に描かれ、むしろ落ちこぼれの松井が、イプセン「人形の家」ノラ役に選ばれ、同期生から嫉妬顰蹙を買うが、公演が大評判となり、自由奔放な女優人生を島村が擁護するうち恋仲に発展。島村は、協会、大学から放逐され芸術座を立ち上げたが、分裂、劇団員の自治に苦慮が深まる中、スペイン風邪を患い死去。島村家財産問題、劇団内孤立に追い詰められた松井は2ヶ月後に自殺して果てた。新人伊豆肇の好演、森繁久彌は下っ端で顔を出した。
佐藤克巳

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