一人暮らしのOLマリの家に、隣の家で同棲しているテツオが、痴話喧嘩の末逃げ込んでくる。ベランダに数日おいてほしいと頼まれ、奇妙な三角関係が始まる。
横並びの二つの部屋のライトが対照的である。赤に統一されたアジアンなものであふれているテツオの部屋、それに対比するように青系でシンプルな部屋のマリ。その部屋を行き来する中立な立場のテツオを演じる綾野剛は、長髪で線が細く、毛布をかぶってる姿がなんだか子犬みたいにかわいく、どこか消えてしまいそうなはかなげな感じが容姿にも表情にも出ている。
テツオとマリの共通点は孤独であること。だから一定の距離感を保っている。ベランダの間には扉があって、その扉を取っ払うことはできない。ほんの少しずつマリがそうしてテツオが歩み寄ろうとする。どっちかというとマリが上から見下ろす感じで、通気窓を通して食事を与えたり、朝の挨拶を交わしたりする。
二人の間に何か生まれる訳ではない。その存在があることに安堵し、少しだけ人間らしいぬくもりを感じるのだ。しかし所詮孤独な惑星に住む二人・・そのぬくもりは直接触れて確かめるものではない。触れ合わないから良いのだ。干渉しあわないから、成り立つ関係なのだ。
そうして男は赤い部屋に戻っていく。孤独な惑星の住人の女は少しその扉を開きかけたけど、やっぱり交わらなくてよかったんだ。少しだけ惑星に温度がかよってくる。隣にいるそれだけでなんだか安心できる。自分と同じ性格の人と付き合ってもうまくいかないってあの感覚かな。
16mmフィルムの空気感に重なる音・・限られた空間で現実とファンタジーが交差するような、リアルなのにどこか浮いてるような寓話的な表現で埋め尽くされた作品。