海

キャラメルの海のレビュー・感想・評価

キャラメル(2007年製作の映画)
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猫の中には一羽の鳥が住んでいるらしい。夢の中にしか出てこないからつかまえることができなくて、でもねむるたびに追いかけている。出会いっていうのが、神さまの仕組んだ運命なのだとしたら、愛しあって笑いあうことくらい、わたしたちだけで隠れてしようよ。痛みがあるから喜びがあるとか、泣いた数だけつよくなれるなんていうのは、ほとんど嘘で、あるいは祈りだから、愛しても、愛してもまた一人。わらっても、わらってもまだわらう。際限ないもの、心の中で起きることの全部は。あなたは、未来への祈りさえ上手く繰り返すことのできないわたしの声に、耳をかたむけていてくれた。あなたは、ことばなんて12個しか持たないわたしから、55個の感情をすくいあげてくれた。何もかも、この生活も、社会も、ここにある何もかもが、するどくも鈍くも痛くて、わらってしまうほどに間抜けで、退屈でうたた寝してしまうくらい、幸福だった。 わたしとあなたのあいだにある世界の、人の数のその何倍も生まれ続ける世界の、そのうつくしさの、連続だった。映画とキャラメルなんて、映画館とキャラメルポップコーンのなかに埋もれていつまでも光を知らないかもしれないから、このひとたちの背中の影が、いとしかった。分厚いガラス越しのきらめきが、なつかしかった。ことばで照らすことのできないあの日だけが、続いていく退屈なこの毎日だけが、うしなわれることのないわたしたちが、いつまでも本当にいとおしい。失ったものを数えることは、うしなわれないあなたとしたい。誰にも見つからない場所に隠れて、あなたのことを待っていたから。 猫の中には一羽の鳥が住んでいるらしい。夢も鳥も最初も最後も、目に映る全部のうつくしさが、からだのなかに、宿っている。
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