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惑星ソラリスのjonajonaのレビュー・感想・評価

惑星ソラリス(1972年製作の映画)
4.2
ふつくしい…
小難しそうな(実際難解だが)雰囲気と芸術点の高さで見るのにハードルがあるタルコフスキーだけど本作に限って言えば、ある程度SFに慣れてる人ならば、何かのついでの流し見などでもおおよそ展開の流れが把握できるので案外意気込んで見ないで楽しめる。
おまけにどのシーンを眺めても映像は文句なく美しい、音は基本的に静か、癒しである。正直眠くはなる。

SFとして人間の意識から惑星が生み出す『客ーゲストー』の設定が非常に秀逸。惑星ソラリスの生態とでもいうのだろうか、人間を食虫植物のように惹きつけて捉えて離さない、そのために人の心から欲しいもの、求めてやまないものを具現化させる。あげくに具現化どころかそれは死なず、かと言って普遍のものではなく心をゆるすたびに変化していき、自己の存在意義を疑い出すほどの人間性を見せてくる。簡単に言うと忘れたかったのに近寄ってきて、掴もうとすれば離れていく、押しては引いての駆け引き上手さんなのである。そうこうしてるうちに人間側はもちろん自分の一番核にある部分に触れる存在の不安げな姿を放っておけるわけもなく自然と籠絡されていくのである。

個人的にこの映画の魅力はこのゆるさと気だるさ。不審が見られて駆けつけた惑星ソラリスの基地には、想定外にもみんなだらけ切っている。そりゃ理想の女が目の前に居てくれたらもう他に何もする気は起きんだろう。神話的でもある、この倦怠感。
テーマ的な部分をもっと深掘りしたいけど頭が回らないのでまたこんど考えよう。
自分がもし主人公みたいに、昔無くした理想のひとを目の前に差し出されたら間違いなくその世界にまた溺れたい欲望に勝てないだろうな。

とにもかくにもストーカーで爆睡しちゃった自分にとって、タルコフスキーの肩の力の抜いた楽しみ方をやっと掴めた映画になりました。ぶい✌️

メモ
・女の人が誘うように艶かしさを伴って扉の向こうに移動し手をかけた指先だけ残して、戸を閉める。彼女の目線の妖艶さが先行きの不安を暗示させる。戸に掛けた手先がとても良かった。

・荒れた海の渦巻き、船の丸窓から眺めながら、君の心に影響されてるのかもしれないと男が言う。渦巻きの画が映る。この星は心を持ってる。

・母親に足を洗ってもらい思わず涙する主人公。年老いた姿はすでに母親よりも老けている。大人になると無くしたもの、絶対的な安心感の喪失を感じさせる演出に思えた。

・氷漬けで死んでいた妻が生き返る時のひっくひっくという艶っぽい引き攣った動き方。人間ではないと言う恐ろしさと同時にやはりエロスを感じる。主人公にとっては離れ難い存在。
氷漬けの妻を抱き抱えてベットに持っていく主人公の姿も印象的である。

・乗組員の話し合いの場で、この人が1番理性的で人間的よと旦那を涙ながら擁護する妻の亡霊。しかして最終的に手を置く場所は旦那の頭の上である(脳みそ)。

・ソラリスに行く前の証人喚問のようなシーン。交互に発言する際になるマイクか何かのピー音が印象的。リズムがいい。
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