シズヲ

ポセイドン・アドベンチャーのシズヲのレビュー・感想・評価

4.4
大津波によって転覆した豪華客船からの脱出を試みる人々のドラマ。ハリウッドにおいてパニック映画というジャンルを確立させた金字塔的作品。当時大ヒットを記録したことで20世紀フォックスの経営を救ったらしいのが凄い。実際今見てもめちゃめちゃ面白いから唸らされる。ジーン・ハックマン&アーネスト・ボーグナインという男臭い配役大好き。

この映画が何故ここまで優れているのかと言うと、それは特撮のみならずキャラクターと人間ドラマの秀逸さが際立っているからだと思う。導入部の時点で複数いる登場人物の造形・立ち位置を端的に描写し、彼らのバックボーンを手際良く示していくのが良い。主役のハックマンと対立する役どころのボーグナインだけど、序盤の「私を6回も逮捕した」「お前に商売なんかしてほしくなかったからだ!」という遣り取りで彼が憎めない人物であることを観客にしっかりとアピールしているのが特に印象的。こういったドラマがあるからこそ“転覆”のスリルが効いてくるし、その後のサバイバルにもしっかり響いてくる。

メインであるリーダー格の牧師や頑固な警官を中心に、温厚な性格で的確に周囲を支える雑貨屋の男性、船舶の知識豊富な少年、孫と会うために船に乗っている老夫婦など、それぞれの個性やキャラ立ちも明確で味わい深い。あと「対立し合う牧師と警官」や「傷心の女性歌手と彼女を気遣う雑貨屋の男性」など、登場人物間の相互関係を明確にしていることで感情移入や話の展開をスムーズにしているのも上手い。

がっつり予算掛けて技術を注ぎ込んでいることがありありと伝わってくる70年代製の特撮もとても良い。現代のようなCGも無く、今となってはVFXも若干の手探り感はあるとはいえ、それでも大量の水や船舶のセットなどを惜しみなく使った映像には無骨な迫力が籠もっている。大津波による客船転覆→船内が“反転”して乗客が次々に落下していく一連のシークエンス、まさに急転直下のスリルでとても好き。“転覆した客船の内部”が複数に渡ってがっつり作り込まれている辺りに当時のスタッフの執念が感じられる。こういった撮影や役者陣の好演に加えて、テンポ良く窮地を描きながら進行していく構成の秀逸さが“血肉の通ったスペクタル”を効果的に演出している。
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