ルサチマ

アメリカの伯父さんのルサチマのレビュー・感想・評価

アメリカの伯父さん(1980年製作の映画)
4.8
エドワード・ヤン回顧展の別会場@国家電影及視聴文化中心(TFAI)にて。

ヤンが影響を受けた映画10本として特別上映されていたものだが、確かに『恋愛時代』以降のヤンの作品に内容面でもスタイルも深い影を落としてるのが明らかで驚いた。
ありふれたインテリの中流階級の3確関係のメロドラマを、生物学者が臨床心理学的視点でラットの実験とパラレルに物語るのだが、映画中盤で2年の月日が流れたあたりで、この並行モンタージュが見事に機能しており、且つネズミ頭の着ぐるみを被ったコスチュームプレイが映画全体にユーモアを行き来届かせるとともに、時折映画に切れ目を入れるギャバンの映画?のインサートが現在進行形のメロドラマの行末を暗示させ、過去、現在、未来の境を淡いにしながら人間生活の悲喜劇を描写していく。
西洋的文明の表現手段である映画は絶えず現在を更新することで終わりへと向かうが、この映画で過去は常に現在に深い影を落としつつ、未来は絶えず過去への記憶を反復する。そのような時間の解放の仕方と生物学と人間社会を並行モンタージュはしつつも、弁証法的に扱うのではなく、寧ろマルチユニバースな視点で現代の文明に侵された人間生活を描き出そうとする試みに見えて興味深い。この点でブレッソンの『たぶん悪魔が』と比較してみたらより広がりがあるんじゃないかという気がするし、今最も自分にとっても興味がある領域の問いの立て方だと思えて、英語字幕で全て理解できているとはとても思えないがエドワード・ヤンの映画を見るのと全く同じような興奮があった。

そしてやはりヤンはシネフィルの活劇思考と言うわけでは全然なく、寧ろ思想からスタートする作家性の持ち主であり、同時にコメディの人だなと確信した。
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