せいか

二百三高地のせいかのネタバレレビュー・内容・結末

二百三高地(1980年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

2.18、YouTubeの東映公式チャンネルで期間限定で公開されていたため、あんまりこの手の映画は観ないのだが、いい機会なので観る。やっぱりこのへんの時代の作品だとコメント部分がすごいことになりますね(頭痛いのも多いぞ)。あれはあれで一見の価値はあったと思います。
中盤でさだまさしの『防人の歌』が何なら歌詞まで掲載して流れるのだが、この曲好きなのですが、この映画のテーマソングだったんですね(悲惨な戦場というようにひたすら描いた末になんかええ感じに流れるので、無いほうが良かった)。
今のこのタイミングで無料公開に踏み切られたのは観ながらもよく分かった。ウクライナとロシアや世界情勢のさまざまだけでなく、さらに身に迫るものとして現在の日本の方針の在り方など、現今の問題のことを観ていて意識せざるを得ない視聴態度になる。

トルストイの名前も散見していたのだけれど、去年の夏の広島県での雑引用に怒り狂った件を思い出してしまう呪いをかけられているので、超別件ながら許さねえ気持ちを新たにしていた。

現在の邦画も私にとっては大抵そうだけれど、本作なんかもそもそも聞き取りが難しくは思ったので、結果爆音で観ることになるのが邦画鑑賞でネックなのよね……。


全体的にこの手の作品にしてはそこまで偏ってはいないけど(むしろ現在ならこの内容のものも映像も作るのはかなり難しそうだから、観ていてなかなか圧巻である)、それでもやっぱりどこかに視点はほぼ固定されるから実際の複雑さ(ともあんまり言えないところはあるけど)、込み入ったものはぶっ飛ばされてるので(海外との関係とか、いろんな思惑とか、最初のほうでかるーくのみ触れられてるだけだけども、当時の日本の考え方のいろいろとか。植民地がどうのだからどうのといった大義名分にされてることももっと本来いろいろ込み入っている。本作ではほぼ自衛のために行っているのだという前提のほうに寄って話は進んでいる)、あくまで大衆向けにこのテーマで戦争を描いてるものとして意識して観るべきではある(敢えて言うことでもないが)。
三時間近い作品だけれど、たぶん半分くらいは黙々とした先頭描写がひたすら続く。

単純に、戦争の渦中にあった人々のおかげとか、彼らの苦渋がどうのという感想には私はならなかった。そもそも日露戦争の現実の立場ってそう簡単な話ではないし、起こってしまったことから考えたらそういう賞賛になるのもそれはそうなんだろうけど、その態度も危険だし、そしてまた本作はそういう危うさもちゃんと描かれていたと思うのだけれども。

本作では数多の人々の話が平行して描写されて戦争が進んでいき、そうした描写からもさまざまな表現がなされるのだが、特に、ロシアに親しみを持ち、日本がロシアと戦争をすることに躊躇いを覚えていた主人公が戦地での悲惨で無茶苦茶な戦いの中、捨て駒として扱われて死んでいく周囲の仲間たちの死と張り詰めた極限状態とに復讐の怨鬼のように覚醒してしまうのが本作での一番の肝だろう。日本の描写でかつて主人公が平和を説きながら学校の黒板に書いた文字を無邪気に消して戦勝を喜ぶ学校の人々の描写がひときわきつい。彼も最期は原始的なもつれ合いの明確な殺意の殺し合いの果てに遂に死んでしまうのだが。
乃木希典などの指令側の描写も見せ場なのだろうけれど。

終盤近く、泥沼の戦闘の果てに、日本国内は勝利を得たとして無邪気に喜びに湧くのだけれど、そこも押しつけがましくなることなく黙々と批判的に捉えていて、それだけでも本作は戦争を描いたものとして良くできた作品だったと思う。

乃木家に対する民衆たちの露骨な身勝手さの皮肉的な描写なんか一際普遍的でさえある。戦争中は怒りを向け、終われば英雄として崇める。気丈に振る舞ってただ仏壇と向き合っていた夫人が、後者ではその残酷さを前に、気丈さを失って仏壇と向き合っていたのがまた印象深い。
この直後に乃木が天皇を前に報告しながら泣き崩れるシーンもあるのだけれども、彼もこの戦いの後には祭り上げられまくることを思うと、主人公が、途中、自分一人が成果を果たして褒賞されているようで気が咎めると言ってたシーンなども思い出す。少なくとも本作に描かれた彼の場合は(あくまで映画として切り分けて感想として言うと)、そういうことだとか、兵士に言われた、自分たちは捨て駒であるという言葉もいろいろがあまりに刺さったのだろうなあと思うし、そこも本作が作品として伝えたいことだったと思う。

主人公の死を受けた恋人がまた黒板に、かつて主人公が書いていた平和の精神を書こうとしても書けずに泣き震えていたり、最後、喜びに湧く人々に反して、とはいえはたして何が残ったのかということを強烈に描いていたり(実際、日露戦争はその題材とするにふさわしいだろう)、終わっても人々の生活は続くことだとか、これから間もなくさらに崩れていくことになる日本の足音が聞こえてくるような寡黙な最後とか、よくできた作品だったと思う。戦争映画っていろいろバランスが難しいと思うのだけれど、名作だと思う。ただ、最初に言ったように、映画作品とする上でかなり削られた上で成り立ってはいるのだけれども。ロシア側はどうであるとかもそこももう切り捨てられている。本当、あくまで日露戦争を題材に戦争を描いた反戦映画として観てほしい(と、ちょっといろいろのコメントを観ながら思ったので繰り返しておくけども)。作品にするに当たって何をいいように捉えてるかとか、そういうのも……。本作、あくまで大衆向けに反戦を表現したいが第一義の作品だと思う。
せいか

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