櫻イミト

山河遥かなりの櫻イミトのレビュー・感想・評価

山河遥かなり(1947年製作の映画)
4.5
アウシュビッツから保護された子どもと兵隊の交流を描くヒューマンドラマ。監督は「真昼の決闘」(1952)「地上より永遠に」(1953)のフレッド・ジンネマン。戦後ドイツで初めてロケしたアメリカ映画。「あの日の声を探して」(2014)のリメイク元。

戦争直後、アメリカ占領下のドイツ・ベルリン。ナチの収容所から救い出されたチェコの少年カレルは難民センターに運ばれる途中で逃げ出し、さまよっているところをアメリカ兵ラルフ(モンゴメリー・クリフト)に拾われる。一方、カレルの母親も生き残っていて我が子を探していたが。。。

夜、保護された大勢の子どもたちが貨物列車で到着するところから始まる。最初の30分は戦争で瓦礫となったベルリンの街と、怯え切った子どもたちの様子がドキュメンタリータッチで描かれる。非常にリアルに戦争が子供に与えた心の傷の大きさが伝わってくる。ここまでだけでも本作の意義は大きい。

同年に瓦礫のベルリンロケで子供を描いたロッセリーニ監督「ドイツ零年」(1948)を想起するが、作品のベクトルは正反対だ。同作は大人の悪い影響でドイツ人の子供が破滅していく物語だったが、本作は大人の良心がアウシュビッツに入れられていた子供の心を再生する。優しい兵隊を演じたモンゴメリー・クリフトが印象深く、クリント・イーストウッドも本作での彼の演技に大きな影響を受けているとのこと。まさに“子供は社会を映す鏡”という言葉を体現した両作であり合わせて観ることを勧めたい。

中盤以降は、子供と兵隊、そして母親の良質なメロドラマが展開する。善意の行動が幸を呼ぶ展開に弱いので思わず感涙した。

本作では英語以外に、ドイツ語、フランス語、ポーランド語、チェコ語、ハンガリー語、ヘブライ語の合計 7 つの言語が話されるが、 英語以外に字幕は使用されない。これもまた戦後ドイツの混乱をリアルに表現するためのこだわりで大きく功を奏している。
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