ピト

アヒルと鴨のコインロッカーのピトのレビュー・感想・評価

3.8
うちの実家にはボブディランのレコードがたくさんあって、私がまだ言葉も分からない時から父の膝の上で子守歌にディランを聴かされてたそうです。

どうやら父はダミ声の歌手が好きだったようで、ボブディランとかトムウェイツを幼い頃からさんざん聴かされて育った私は、今では天龍源一郎さんがなに言ってるかをバッチリヒアリングできる大人にまで成長しました。


この映画ではボブディランが象徴的に扱われてて、ファーストシーンは引越してきた主人公がボブディランの『風に吹かれて』を歌いながら片付けしてる場面から始まります。


父は昔から、ボブディランと言えばこの『風に吹かれて』だと言う風潮が大嫌いだったので、多分この映画を観たら、またか…とため息ついて文句を言いながらも、なんだかんだ最後まで夢中で観てから、観終わった後にはやっぱりブツブツ文句を言うんだと思います。


そんな父の元で育った私ですが、ふと口ずさむディランの曲は『風に吹かれて』しかなくて、たまにうっかり父の前で鼻唄を歌ったりした日には、ディランの隠れた名曲講座が始まってしまい、レコードを見せながら夢中で語る父の顔をぼんやり眺めたものでした。

昨年ボブディランがノーベル賞を受賞した時も、ニュースで散々『風に吹かれて』が流れてたので、もし父がそれを見てたらブツブツ文句言いながらも、にやけ顔で自分の事の様に嬉しがってたことと思います。


来週お盆で、父が一年ぶりに向こうから帰って来るので、父の遺したレコードに針を落として、ノーベル賞の事と、この映画の事を教えてあげようと思ってます。

私は相変わらず『風に吹かれて』しか歌えないけど文句言わないでね。 おわり
ピト

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