yoshi

告発のyoshiのネタバレレビュー・内容・結末

告発(1995年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

アルカトラズ刑務所を舞台に、実話を基に製作された1995年のアメリカ映画。
貧富の差、境遇の差を超えた「歩み寄り」を描いた映画だと私は思う。
実は「友情」というには程遠く、「絆」や「思いやり」に似た心の結びつきである。

貧しい者は虐げられる。
多くは生きるために罪を犯し、その行き着く果てが刑務所。

その受刑者が置かれた悲惨な境遇を描いたという点では、恐らく現在でもNo. 1だ。

幼い頃に両親を亡くしたヘンリー・ヤング(ケビン・ベーコン)は、まだ幼い妹を養うため、17歳の時にお店から5ドルを盗む。
それが原因でアルカトラズ刑務所に収監され、25年の刑を受けた。

ある日、ヘンリーは脱獄を図るが、他の囚人の裏切りによって失敗に終わり、ヘンリーは地下牢に3年間も収監される。

たった5ドルで25年の刑!
さらに地下牢に3年。
いくら何でも厳しすぎる悲惨な境遇の極地。

刑務所での描写は今見ても痛々しい。
光の当たらない地下牢に、全裸で放り込まれる。
まともな食事すら与えられず、正気を保つために、ひたすら呟き続ける。

時にはグレン副所長(ゲイリー・オールドマン)から理不尽な暴行を受け、1年間にたった30分間しか外に出してもらえない。

諸悪の根源はグレン副所長。
他の囚人が脱獄をしないよう、見せしめでヘンリーを3年間収監。
「お前が脱獄することで私の家族が路頭に迷うんだぞ!」 と叫び、ヘンリーのアキレス腱を切る。
犯罪者を人間と扱わない差別主義者。

非人道的な扱いとは、まさにこのこと。
イヤ、動物以下の扱いと言っていい。

自分が暴力を受けつつ、地下牢で3年間耐えれるかと問われれば、「到底無理です」としか言えない。
自殺を考えるか、さらに罪を重ね、死刑を望むだろう。

やがてヘンリーは精神に異常をきたした状態で地下牢から出されたが、食事中に裏切った囚人仲間を突発的に殺害してしまう。

私は「故意」だったと思う。

地下牢に戻るくらいなら、死刑で死んだ方がマシだと。
衝動的に見えて、実は確信犯だと思うのです。

第一級殺人の容疑者として告訴されたヘンリー。
死刑が当然だという絶対的不利な状況で、まだ24歳の若手弁護士であるジェームズ(クリスチャン・スレーター)がヘンリーの弁護人を押し付けられることに。

ジェームズはヘンリーとは対照的な若者。
明るい世界で愛情を燦々と浴びて育ったやる気に燃える同世代の新人弁護士!
彼女もいて、将来的にも順風満帆。

若く野心に燃えるジェームズは、いかに公選弁護士であろうとも、上司に押し付けられた泥仕事が気に食わなかった。

事実、ヘンリーに会ってみると、証言はおろか、まともな会話すら出来ない。

ヘンリーが殺人事件を起こすほどの精神異常をもたらしたのは、「刑務所に問題がある!」として、アルカトラズ刑務所を相手に告発するという思い切った行動に出る。

当初、ジェームズはヘンリーを救おうとしたのではない。
ヘンリーの異様で悲惨な有り様に同情したのは、もちろんだが…
自分の扱う事件が、公平な裁判として扱って貰えないことに腹が立っていたのだ。

要は場の勢いであり、彼のプライドが許さなかったのだ。

全く境遇の違う2人の出会い。
実は刑務所でのヘンリーの仕打ちよりも、この2人の境遇の差が、正直哀しい。

ヘンリーはジェームズに好きな野球の試合の結果を聞き、ジャケットに残る女性の香水の残り香を嗅ぐ。
カードゲームに興じ、ジェームズは一向にまともな証言が取れない。

ヘンリーは自分と無縁のシャバの空気をジェームズに感じたかった。
いずれ死刑になる身の上の、ささやかな娯楽がジェームズだった。

そのジェームズも親の財布から5ドルを盗んだ経験がある。

なんという陰と陽の境遇の差。

裁判の決着は「地下牢に戻るくらいなら、死刑で死んだ方がマシだ!」というヘンリーの一言で決着する。

それが全てなのだ。

ここまで人間を追い詰めた刑務所側に責任があると、殺人罪について、ヘンリーは無罪判決を下される。

グレンも最終的には虐待の罪に問われ、職務を追放。
天罰が下されるのはカタルシスだ。

アルカトラズ連邦刑務所は管理体制を問われ、このヘンリーの事件をきっかけに閉鎖に追い込まれる。

残念ながら、そのあとヘンリーはアルカトラズ刑務所に送還され、最後は再び地下牢に収監されて、そのあと間もなく亡くなる。

彼は地下牢の壁に「Victory(勝利)」の文字を刻んだというのが、ただの犬死にではなく、彼自身誇りをもって死ぬことができた証。

それだけがこの物語の中での唯一の救いだ。

なんと言っても、言うまでもなく、受刑者を演じるケビン・ベーコンの熱演が素晴らしい。
肉体的な変貌ぶりもさることながら、貴重な青春の日々を獄中で失った喪失感。

胸を鷲掴みにされるのは、外に出れるのが30分しか無いと知った時の心からの叫び。
アレは忘れられない。

どうしても前半のヘンリーが虐待されるシーンが印象に残りがちだが、中盤以降ジェームズが自らのリスクを顧みず、ヘンリーのためにひたむきに闘っている姿も見所。

何かしてあげたい。
同情以上に何かしら行動で示したいジェームズの思いが伝わってくる。
クリスチャン・スレーターも実は感情を抑えた名演だ。

ジェームズの計らいで、ヘンリーが初めて女性に接するシーンは、今見ると「冥土の土産」にすら感じられる。

若い頃からの獄中生活で未だ童貞の彼が、商売女の淫らな技巧に身を委ねる。
気持ちだけが高ぶって思うようにいかない惨めさと焦り。
いずれ死刑となるかもしれないヘンリーへのジェームズへのプレゼントだ。

あまりにも境遇が違う人間と、私たちは分かり合えるのか?
ほんの僅かな「歩み寄り」と「行動」が生きる心持ちを変えるのだ。
私はそれがこの映画のテーマであると思っている。

「この裁判が終わったら、お前はここには来ないだろう?」と言ったヘンリーのセリフは心に残る。

ヘンリーはジェームズのおかげで、人としての尊厳を取り戻し、
ジェームズはヘンリーのおかげで人としての正しさに目覚めた。

もはや会えないだろうと感じつつも「いつまでも友達だ」とヘンリーを見送るジェームズの虚しさは辛い。

「告発」という邦題は事件全体を捉えているが、この物語に描かれるのは「一期一会」の精神だ。

同年、製作された「フォレスト・ガンプ 一期一会」よりもはるかに人に対する思いやりの気持ちは強い。

クリスチャン・スレーター、ケヴィン・ベーコン、ゲイリー・オールドマンという錚々たる演技巧者の俳優陣。

加えて骨太な人間よりドラマだ。
アカデミー賞に無縁だったのが、今でも信じられない。

これだけ語っても、この作品について上手く表現できたとは感じない。

この物語は史実に合っていないと、水を差すような評価もあるが、この映画における演技人の化学反応は素晴らしい。

それだけでも充分に見応えがある。
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