渋澤怜

FAKEの渋澤怜のレビュー・感想・評価

FAKE(2016年製作の映画)
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「ラスト12分ネタバレ禁止」という煽り方をされてたし、「FAKE」っていうタイトルと監督の毛色から、「一杯食わされる系のオチがつくのかな?」と思ってたんだけど、

私にとっては「普通に」最高の終わり方だと思ったし、まったく食わされたとは思わなかったな〜……!

佐村河内騒動がモチーフだから、
「耳は聞こえるのか否か」「曲を作ったのは新垣氏なのか」という謎が当然つきまとうんだけど、
ミステリとか謎暴き要素が無くとも、出てくる人間の表情とか拮抗する感情とかを瞬間瞬間追うだけで面白く、そして、どんどん、耳が聞こえるとか作曲者誰とかどうでもよくなってった。

佐村河内氏と監督、創作者同志の矜持による信頼の糸が結ばれるのか、切れてしまうのか、
その拮抗する感じがとても美しかったから、私はあのラストは最高だと思ったよ。

「佐村河内さん、音楽やりましょうよ。頭の中で溢れてるはずでしょう、音楽が」
「俺はたばこやめます、この映画撮り終えるまで」
森監督のこのセリフ、格好良かったな。
ガチで創作やってる者しか吐けないセリフ。
同じく創作者(のはずの)佐村河内氏がそのセリフをどう受け止めたかはぜひ本編で確かめてほしい。


「本当のことを追う」のがドキュメンタリーなのかもしれないけど、
もはや「本当のことがどうでも良くなる」という意味で、
逆説的に超良いドキュメンタリーだった。意味より強度、存在意義より実存。

表面的に見れば「メディアの報道の虚偽を暴く」ドキュメンタリーかもしれないけど、
たしかにテレビも雑誌もクソメディアだけど、
映画だって当然メディアなわけで。
「メディアを疑え」なんてメッセージを映画で打つとしたら、そんな直球じゃダサいでしょ。そういう意味で映画チックじゃない映画だし、ドキュメンタリーじゃないドキュメンタリーだった。


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あとね、もう奇跡といえるほどに役者が揃ってる。
佐村河内氏も、ファッション誌やらバラエティ番組やら出まくっておどけまくる新垣氏も、佐村河内氏を会見で攻めまくった神山氏も、全員キャラ濃すぎだろ。

それから、
おずおずとして全然役に立たないフジテレビの重役スーツ男三人と、
「作曲の証拠ミセテヨ~そしたら一目瞭然ダヨ~」とぬかしよる外国人の記者の対比な!

そして言わずもがな、猫。

(2016年のブログから転載)
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