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ジンジャーとフレッドのチネマエッセのレビュー・感想・評価

ジンジャーとフレッド(1985年製作の映画)
4.8
私的に年末といえばフェッリーニを見たくなる。なぜでしょう。

そしてこれはとくにイタリアの賑やかでごたごたした年末っぽさがよくわかる映画。

アメリカで大人気であったアステアとロジャースというダンスコンビのパロディ芸人として、イタリアでかつて大人気を博したジンジャーとフレッド。芸能活動もとうに辞め、それぞれの生活に入って40年経ち、いいかげん老婆老爺の彼らに突然のテレビ出演オファーが!
もう年末に毎年よくやっているようなくだらないバラエティ番組に、それぞれの思いから出演する。それは奇人変人ばかり集まるかなりキワモノのショーであった。

イタリアで正月に食すザンポーネ(豚足に肉を詰めている)がこれでもかというグロさで駅舎にぶら下がり過剰なまでのキャンペーンをやっているし、ストーリーと関係ないところでやたらと広告やテレビの変なCM、番組が目につく。

実はこれはフェッリーニによるテレビへのアンチテーゼ。彼自身もCMなどを作ったことはありますが、彼はテレビがひどく嫌いでした。見てると笑えるけど、なんとなく恐ろしくなる。テレビの大衆への影響度合いの余りの大きさと、商業的にあまりに煽動的すぎている問題などを示唆しています。こんなに柔らかいストーリーの裏側に彼はこんなとげを隠していたのです。

フェッリーニは自分自身を投影させたキャラクターを主人公にすることが多かった。一人はお分かりのようにマストロヤンニ。そしてもう1人は奥さんであるジュリエッタ・マジーナ。フェッリーニは確か自身の本の中で「マジーナは自分の分身だ」と語っていたことがありました。彼女は女版フェッリーニであるのです。

これはその2人が共演したというフェッリーニの中でも大変稀有で感慨深く、重要な作品なのです。そして年老いた2人にフェッリーニの影を見て涙が溢れてくるのです。
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