きゅうげん

東京流れ者のきゅうげんのレビュー・感想・評価

東京流れ者(1966年製作の映画)
4.2
鈴木清順×渡哲也。
義理と人情を捨てられない男の小さく切ない“仁義なき戦い”。

第一幕はビルをめぐる権利問題の陰湿なサスペンス。その枠組みと作劇からして既にいわゆる“任侠映画”とは一線を画したものに。
つづく第二幕はいよいよヤクザ映画らしく無実の罪を被って“流れ者”となるものの、しかし客人として厄介になる先々で騒動に巻き込まれる展開に。ところが庄内でも佐世保でも、そんな大立ち回りは徹頭徹尾コメディ調で、まるでまさしくドリフターズ。
そして第三幕は主人公の仁義が裏切られる、ヤクザ社会のしがらみと欺瞞をスタイリッシュに描くクライマックスになっています。“鈴木清順任侠映画”は任侠映画のアンチテーゼでありながら、かつストレートな任侠映画でもあるという不思議な味があるんですよね。本作では男っぷりのいい渡哲也が、その味をより深く強くしています。
しかしまぁ、当時の日活首脳陣が嫌がったのも分かります。

しかし注目すべきはセット美術の前衛さ。
イエローのクラブ、グリーンの事務所、そして純白の最終盤。ポップかつシュールかつアバンギャルドな色彩感覚はとても高クオリティなうえ、登場人物の衣装まで同調させる徹底ぶり。パキッと一枚絵が決まっているシーンは最高ですね。
まぁでも、やっぱりこんなヤクザいないよ。
(デミアン・チャゼルが『ラ・ラ・ランド』でオマージュしたってのはここらへんでしょうかね?)