Ricola

宵待草のRicolaのレビュー・感想・評価

宵待草(1974年製作の映画)
3.2
政治的思想が強く反映された、ラブロマンスが絡んだ若者たちの珍道中が描かれた作品。
ストーリーを理解することに重きが置かれた作品ではないと感じた。
神代辰巳監督が自由に「映画」と時代を捉え、のびのびとそれを描写した作品なのだろう。
とはいえ、演出や描写に統一性が見られるためか、カオスすぎてわけがわからないとまでは感じなかった。


この作品を貫く演出とは、「歌」である。
登場人物がよく歌を歌う様子が見られる。歌が次起こることを予告したり、物語の雰囲気をガラッと変える役割を果たしている。
例えば、歌声がショットをまたぐことで切り替わりを意味したり、またはショットの切り替わるタイミングで人物が歌い始めたり、歌いながら人物を誘拐するなど、歌がショットやシーンを繋いでくれる。

また、シリアスな状況のシーンでは、物語外の音として人物の陽気な歌声がシュールさを演出している。
その歌が終わると、さらに陽気かつのどかな音楽が流れることで滑稽な雰囲気が強まるのが面白い。
他にも、主人公の青年玄二の実家に3人で行くシーンにおける歌の表象も興味深い。
仏壇に向かって手を合わせながら何人もの人がある意味歌っている。
玄二たちが会話をしていてもBGMのようにずっと歌われており、彼らの切羽詰まった状況と相反する淡々とした御経が奇妙な雰囲気を醸し出している。

映画撮影の現場に偶然居合わせてチャンバラ合戦に加わるも逃げていくシーンは、さすらいの彼らのノリをただ表しただけではないだろう。
「映画なんてものはね、所詮遊びさ。悪い夢かもしれないが、だから面白いんだな」
この台詞に、この作品の全てが詰まっているのではないか。
映画で「遊ぶ」ことで、真の自由を獲得した3人の歌声が響き渡る。
遊び心の詰まった少しアイロニックでクレイジーな作品だった。
Ricola

Ricola