ジェイコブ

仁義なき戦い 完結篇のジェイコブのレビュー・感想・評価

仁義なき戦い 完結篇(1974年製作の映画)
4.1
打本会と山守組の頂上決戦の後、渦中にいた広能は網走刑務所へ収監される一方、武田は政治結社天政会の会長に就任し、全く新しいヤクザ組織の形を作り上げようとしていた。そんな中、広島で肩身の狭い思いをしている広能組の若衆を見かねた広能の兄弟分市岡は、天政会の金庫番である杉田を殺害し、組織の弱体化を狙う。市岡への復讐に燃える天政会副会長の大友勝利に対し、武田は大友を諌めると共に、逮捕される直前に自分の跡目として腹心の松村を指名する。武田に対する不満を募らせる大友のもとに、市岡から兄弟分の酒坏を交わしたいと申し出が入る……。
深作欣二監督のヤクザ映画シリーズの完結編。代理戦争からの宿敵武田に、シリーズを通していがみ合い続けた山守と槇原、さらに広島死闘編でその狂犬ぶりを見せた大友勝利など、これまで出てきた悪党達の大集合を見せている。そんな古い時代の悪党と渡り合うのが、今作からの登場である北大路欣也演じる松村保である。松村は武田の後釜として、これまで暴力には同じかそれ以上の暴力で返すのが主流であった広島ヤクザ界に、知恵と金で闘うという新風を巻き起こした。大友を逮捕に追い込んだり、地位や金になびきやすい槇原を懐柔するなど、彼の取った暴力だけでない戦い方は武田の言う所の時代の変化を象徴するものだろう。しかし、松村のもたらした急激な変化は、同時に時代の流れについていけない古き時代のヤクザ達の反感を買うものであり、武田もまたその一人であったのは皮肉な話である。権力の世代交代においてはどの世界でもある話だが、この時代の変化こそが、本作のテーマであり、ラストでは、「時代が例え移り変わろうとも、暴力が無くなることはない」と嘆くようなメッセージが込められている。
また、本作の真髄と言うべき部分は、広能の手記に書かれた一文「つまらん連中が上に立ったから、下の者が苦労し、流血を重ねたのである」にある。この一文には、これまでに広能が経験してきた若者達の死に対する思いが込められている。つまらん連中が固執した意地や利権によって、数多くの可能性が奪われ、そして悲しみを生んだ。広能の言うつまらん連中とは、山守や打本を指しているが、自分の組の若者である佐伯の死に直面した時、彼もまたその「つまらん連中」に成り下がっている事に気づいたのだろう。だから彼はあれだけこだわっていた極道から身を引く決意を固めた。
笠原和夫から脚本が変わり、賛否が分かれた作品であるが、広能の引退に槇原の死など、古い時代の終焉を描くシリーズの集大成と呼ぶに相応しい作品に思える。ただ、やはり大友勝利が千葉真一で無かったのが非常に残念だった。